第61話 話題の発表会

文字数 1,636文字

「悪ガキとちょっとしたじゃれあい? 」

向井の言葉に弥生はプッと笑った。

「何ですか。それ。
向井さんでもそんなこと言うんですね」

「おや? 
俺はもともとこんなおじさんですよ」

「向井さんはおじさんじゃないです」

弥生がまじめに否定するので、
向井が驚く顔をして笑った。

「えっ? おじさんですよ」

「もう」

弥生はそれだけ言うと、
部屋の中に入っていった。

「向井は鈍いのか、
かわすのが上手いのか分かんない」

「安達君は案外、
鋭いところを突きますね。
おっ、
主役が食べる前に、
牧野君の胃袋に収まっちゃいそうですよ」

「えっ? 」

安達が向井の腕から抜け出すと、
慌ててテーブルに向かった。

向井は安達の姿を目で追いながら、
記憶を手繰っていた。

いつもふと、
何かが頭の隅をよぎるのに、
それが何なのか分からないことに、
自分でも落ち着かなくなっていた。

最近は特に、
多くなっているような気もするが……
思い出せないのか、思い出したくないのか、
自分でもわからなかった。

「向井君、ほらケーキ。取りに来て」

早紀はケーキ皿を差し出すと呼んだ。

向井が皿を受け取っていると、
楽し気な声が聞こえてきた。

「この煮込みハンバーグ美味しいな」

「サーモンマリネが好き」

「ポテトサラダも美味しいですよ」

安達を囲んで笑顔の牧野と弥生を、
微笑ましく見た。

「なぁに~お父さんみたいな顔しちゃって」

「酷いな~早紀ちゃん、
そこはお兄さんにしてほしいな」

「アハハ 流石にお父さんは可哀想か。
でも、
安達君は少し雰囲気変わったよね。
前は身構えている感じだったけど、
ちょっと可愛くなった?」

向井もその変化に驚いていた。

休んでいた間冥王と一緒だったと、
セイ君が言っていたが、
それが良かったのかもしれないな。

何をしていたのか冥王に聞いたが、
内緒とはぐらかされてしまった。

セイに尋ねると、

「二人で仲良く遊んでましたよ」

との答えが返ってきた。

ミニチュアだけでなく、
優香ちゃんにケーキ作りを習ったり、
ボルダリングもしていたそうだから、
リフレッシュできたのかもしれない。

安達君にとっても楽しかったのだろう。

表情も大分穏やかになっていた。

向井と早紀が、
そんな彼らの姿を眺めていると、

「向井さん、戻ってきてたんだ」

セイが二人の傍にやってきた。

「ちょっと前にね。何か用? 」

「さっき妖鬼が、
ステージの事で探してましたよ。
冥王がステージは、
向井さんの担当だからって」

「いつの間に、
俺の担当になったんですか? 」

向井が驚いたように言った。

「えっ? 違うの? 
冥王が向井さんも賛成したって、
言ってたから」

「確かにアイデアは褒めましたけどね。
まあ、いいや。
そういえば、
セイくんも発表会に参加するんでしょ? 」

「へへへ。ティンと一緒に参加します」

嬉しそうに顔をほころばせた。

「ねえ、発表会って何? 」

早紀が二人の会話に割って入ってきた。

「あれ? 
早紀ちゃんはまだ知らなかった? 
冥王が発表会をやろうって言いだして、
それぞれ出し物がある人は、
参加するんですよ」

「へえ~じゃあ私も、
一輪車でもやろうかな」

その言葉に向井とセイが、
驚いて早紀の顔を見た。

「一輪車乗れるの? 
凄い。カッコいいなぁ~」

セイが憧憬の眼差しになる。

「そんな顔されると、ちょっと照れるな。
私こう見えても一輪車競技のソロ演技で、
大会に出たことあるのよ。
まあ、子供の時の話だけどね。
今は……乗れるかどうかが心配だわ」

早紀がケラケラと笑った。

「是が非でも、
その特技披露してもらわないと。
佐久間さんも紙切り芸を見せるそうですよ」

「佐久間さんも参加するんだ。
で、向井君は? 」

早紀とセイが期待するように顔を見た。

「俺? 
俺はこれと言って芸がないからなぁ~
今回は運営陣としての参加かな」

「え~つまんない」

「勘弁してください」

向井は笑って頭を下げると、

「じゃあ、俺はここで失礼して、
妖鬼さんのところに行ってきますね。
早紀ちゃん、
安達君の様子見ててもらえるかな」

「任せといて」

向井はちらりと安達の様子を確認すると、
そのまま工房へ向かった。
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