第69話 プラ板アクセサリー

文字数 1,659文字

室内を見回しても葵の姿は見当たらない

「山川さんは工房だって、
言ってませんでしたか? 」

向井は虎獅狼に近づくと聞いた。

「葵はさっき下界に下りて行った」

「行き違いか~


契約の事を聞きたかったんですけどね」

向井が両手を腰に当て、
首を前に垂らした。

「山川なら、
もう少し継続するそうですよ」

冥王が膝から三鬼とこんを下ろすと、
向井を見た。

「アニメになるなら、まあそうですよね。
でも、このままじゃ、
いつまでも成仏しませんけど、
それでもいいんですか? 」

向井が聞く。

「山川はこのまま、
消滅するかもしれませんね」

「消滅? 」

「なかなか再生に進まない魂は、
意外と寿命が近いものも多いんです。
そういう霊は、
満足したまま消滅しちゃいますから、
彼女もそうかもしれませんね」

「そんなことあるんですか? 」

「数は少ないですけどありますよ。
だから問題を起こさない限りは、
放っておいても大丈夫です」

「もう、そういうことは、
最初に教えておいてくださいよ」

「だって、聞かれなかったから」

冥王の答えに、
向井はムッとして睨んだ。

「嫌ですね~このおじちゃんは」

三鬼とこんの顔を見て、
冥王がとぼけた顔で言った。

「そんなことより、
俺はプラ板をやってみたいんだが」

虎獅狼がそう言ったところへ、
プラ板作家の青田が近づいてきた。

「おお~
おぬしがこれを作った作家か? 」

虎獅狼がペンダントを見せた。

「気に入りました?
絵は山川さんですけど、
そこから加工して、
アクセサリーにしたんです」

「俺も仲間から欲しいと言われたぞ。
で、簡単なものなら、
こやつが作れるというんだが本当か? 」

虎獅狼が向井を指さした。

「作れますよ。
練習すれば大作もできますから」

「私も教えて欲しいです」

冥王が言うと、

「ダメだよ。
僕たちとお花を作るんだから」

三鬼の文句に、

「じゃあ、お花が終わったら、
みんなで一緒にプラ板作ってみる? 」

「やる~」

青田の提案に、
三鬼とこんが嬉しそうに飛び跳ねた。

「はいはい。
じゃあ、冥王もチビ達もこっちきて、
ブーケ作りますよ」

奥のブースから出てきた、
かんなくずアート作家の及川は手を叩くと、
三人を呼んだ。

及川は冥界の提灯を、
かんなくずランプにして、
柔らかな灯りにしたいと工房で作っていた。

「瞳にも優しい温かみのある色合いだから、
冥界には合うと思うんだけど」

そしてその合間に作っていた、
図書室のブーケが可愛いと、
チビ達が騒ぐので、
教室を開いたらしい。

ここはいつから、
ワークショップになったのだろう。

向井は工房で作家たちに教わりながら、
何かを製作している死神達を見て笑った。

「だったら俺が、
先に教えてもらってもいいよな」

虎獅狼がワクワクした顔で青田を見た。

「いいですよ」

青田が笑いながら、
虎獅狼と空いたテーブルに座った。

犬の姿から人の姿に化けている虎獅狼は、
ちょっと笑える。

年齢は高いが姿は少年に近い。

「すいませんね。生徒が鬼や妖怪で」

向井が言うと、

「いいえ。死んだのにこうやって、
作品を自由に作れて私も楽しいんです。
家族を残して亡くなってしまったのは、
辛いですけど……
でも、ここにいる方は、
誰もがそんな思いを抱えているわけで、
結局自分だけではないですから」

四十代の青田は、
中学生の子供のことが、
心配だと言っていた。

人には人の数だけ人生があり、
霊にも多くの思いを持つものがいる。

虎獅狼がその話に、

「俺など長く生きているが、
最後は屍になるだけで、
それより上も下もないと思うぞ。
人間は考えすぎるのが良くない。
存外、
生あるものは図太いと思うがな」

まじめな顔で話した。

「虎獅狼は時々、
驚くような事を言いますね」

向井がいい、青田も一驚する。

「時々とは失敬な。
俺達から見れば、
風が吹くくらいの時間しか、
生きられないのが人間だろう。
好きに生きればいい」

虎獅狼はそういって二人を見た。

「そうですよね。
私の子供も、
人に迷惑をかけさえしなければ、
好きに生きて欲しいです」

青田も笑った。

「うむ。
元気ならばそれでいいではないか」

虎獅狼はそういうと、

「まずは何をしたらいいのだ? 」

青田と楽しそうに作業を始めた。
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