第25話 霊不感症の霊媒師

文字数 1,540文字

この付近は、
元々霊の吹き溜まりになっているので、
祓っても祓ってもキリがないくらいに、
よく心霊現象を起こしている。

そこに目を付けたのが霊媒師たちで、
動画撮影をするものも増えていた。

ただそのほとんどが霊感がないので、
特例の間では荒らしと呼んでいる。

面白おかしく霊を集めて、
払う真似事をして楽しんでいるので、
特例はそんな後始末にも、
追われている状態だ。

田所のいう死人の過労死は、
笑い事ではない。


向井達は姿を消して、
アンナの撮影クルーを探した。

見るとアンナの周囲に、
物見高い人々が集まっている。

「霊いるんじゃん? 」

「電波が乱れてるもん」

「妨害電波だろ? 」

野次馬が、
スマートゴーグルを装着したまま、
右に左にと動いていた。

既に牧野と佐久間が、
その場の様子をうかがっている。

「安達君」

向井達に気づくと、
佐久間が声をかけながら近づいてきた。

「この辺りの浮遊霊は結界張って、
近づけないようにしてあるので、
今のうちに保護しちゃってください」

「わかった」

安達が結界の外へ出て行く。

「あのババァが呼んだ黒い塊、
妖怪も飲み込まれてるんで、
水晶に入ったところでこれと、
交換したい」

牧野が、
向井のところにやってきて言った。

見るとアンナが持っている水晶玉と、
似たような水晶玉を抱えている。

怪訝そうな顔をする向井に、
佐久間が説明した。

「実は、
あの霊光アンナが持っている水晶玉。
彼女に気づかれないように、
定期的に調査室で交換しているんですよ」

「そうだったんですか」

「彼女はどうやら霊不感症みたいで、
悪霊が取り込まれた水晶を持っていても、
何ともないんですけど、
彼女の周りの人間が精気を吸い取られて、
寿命を全うする以前に、
悪霊に取り込まれる可能性があるので、
危険なんです。
そうなると特例の失態になるうえ、
さらにリスクも高くなるので、
研究・開発室で、
軽めの悪霊玉を詰め込んだ水晶を、
考案してもらい、
最初から彼女に持たせた方が、
安全だろうという事になって」


冥界には霊電や悪霊玉など、
日々開発している、
研究・開発チームがいる。

安達が装着しているものも、
そのチームの開発品だ。


「それにさ」

牧野が楽し気にニヤリと笑った。

「あの玉はたっぷり悪霊吸ってるから、
霊電力もバッチリなのよ。
これなら倉田にも勝てるだろ? 」

「ああ、そういう理由ね」

向井が苦笑し、
佐久間はあきれ返ったように、
ため息をついた。


水晶は本来浄化作用もあり、
邪気払いともされているが、
悪霊を吸い過ぎている水晶は、
浄化もできない。

下手に壊せば悪霊が飛び出し、
それこそ松田雪江の漫画のように、
ゾンビが溢れかえる状態に、
なるかもしれない。

危険なパワーストーンは、
特例が回収するのが一番だ。


「で、どうするんですか」

「佐久間には今、
大きな結界をはってもらってるからさ、
向井にはあの野次馬とババァの空間を、
一瞬でいいんだ。
時間を止めてもらえる? 」

「そんなことしてバレない? 」

「何度もこの手で成功してるんで、
大丈夫だと思います。
このところ、
水晶玉除霊にハマっているみたいで、
ずっとあの水晶玉で、
悪霊退散しているんです。
彼女、微妙に霊感はあるんですけど、
不感症なので時間が止まっても、
気が付かないんですよ」

「その前は念珠に凝ってて、
あの時は何の天然石を使ってるのか、
死神が調べるのが大変だって、
文句言ってたけど、
今は水晶玉だし楽勝だね~」

牧野が楽しそうに言った。

「そういう事なら手伝いますよ」

「じゃあ、
あの黒い塊が水晶に入った瞬間、
時間を止めてくれる?  
そしたらこれと交換するから」

牧野がいい、

「いいですよ」

と向井は返事を返した。

「佐久間は俺が合図するまで、
結界破られないようにしてくれよ」

「分かってますよ」

三人は空に広がる黒い塊の動きを、
目で追いながら、
その瞬間を待った。
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