第85話 発表会のエントリー

文字数 1,304文字

「今そこで牧野君が走っていったけど、
何かあるの? 」

入れ替わるように新田が入ってきた。

「これ、岸本君がお土産だって、
置いていったよ」

そういってケーキの箱をテーブルに置いた。

「新田君は発表会のエントリー、
されましたか? 」

「発表会? あぁ、なるほどね。
牧野君はそのエントリーに行ったのか」

新田は箱を開けると、

「俺は見る専門かな」

笑いながらドーナツを一つ取って、
口にくわえた。

「向井さん珈琲飲む? 」

コーヒーカプセルをセットした。

「飲みます」

向井も箱を覗いてドーナツを選んだ。

「あっ、ドーナツ? 俺も食べる」

安達が入ってきた。

休憩室に人がいる時はお土産があるので、
それを嗅ぎつけてやってくるものが多い。

「アニマルドーナツだ~! 
これ、凄い人気なんだよ」

安達が頬を緩めて眺めた。

「そうなの? 」

新田と向井は、
夢中になって選んでいる、
安達を笑いながら見た。

「どれも可愛い……
ピンクのウサギは苺かなぁ~」

「なに? ドーナツ? 
安達はウサギがいいのか? 
じゃあ俺は……ヒヨコにしよう」

死神課から戻ってきた牧野が、
後ろからのぞくと、
サッと手に取り口にくわえた。

「あ……」

安達の表情が曇るのを見て向井が言う。

「安達君も早く選ばないと、
食べたいのが無くなっちゃうよ」

「う~~~~ん、
クマ?……やっぱウサギにする」

「味なんかどれも一緒だろ? 」

牧野の言葉に、

「違うよ。
これは中にクリームが入ってるんだよ」

安達が文句を言う。

「ん? あっホントだ。
俺のはカスタード。
向井と新田のは? 」

二人もなにげに食べていたので、
中身を確認して言った。

「ナッツクリーム。新田君のは? 」

「俺のは抹茶。香りもいい」

「ほら~」

安達はむくれた顔を見せてから、
ナプキンにそっとドーナツを包んだ。

「真ん中のウサギが壊れちゃうから、
ゆっくり食べなきゃ」

「腹に入ればどれも同じだろ? 」

「違うよ」

そんな二人のやり取りを見ながら、
珈琲を運んでくると新田が笑った。

「近頃の安達君は人が変わったみたいに、
子供っぽくなった? 可愛いからいいけど」

「リングのせいだと思います。
陰の気を吸い取っているので痛さが消えて、
陽の部分が表に出ているんでしょうね。
これが本来の安達君の姿なんじゃないかな」

「それは安達君の霊媒体質が、
相当強いという事? 」

「多分。子供の頃から、
かなりの苦痛を感じていたと思う」

安達の魂について何も知らない新田は、
思い遣るように言った。

「俺は霊感もないからわからないけど、
視えたり感じる人には辛いんだろうね」

「そうですね」

二人がそんなことを話していると、
妖鬼が入ってきた。

「おっ、ドーナツ? 
俺にも一個ちょうだい」

ひょいっと箱からドーナツを掴むと、
向井の方を向いた。

「そうだ。向井さんを呼びに来たんだ」

「なに? 」

ソファーに座る向井が妖鬼を見上げる。

「発表会の事で、
聞きたいことがあってさ」

「何か問題でも出ましたか? 」

「問題じゃなくて、
レイアウトを聞きたくて」

「ああ、そのことですか。
じゃあ、
今ステージを見に行きますから」

「そうだね。
見てもらって指示したほうが早いね」

「だったら、俺もちょっと覗こう」

向井達はドーナツを食べ終えると、
部屋を出て行った。
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