第109話 チップ問題

文字数 1,398文字

「そっか。安心しな。
俺も同じとこにするから。
あとで連絡するよ」

「それは助かる。そうだ、
あんたは住むとこあるのか? 
向こうに政府の緊急バスが来てるぞ。
雑魚寝らしいが、
とりあえず二週間は、
住まわせてくれるってさ」

「いや、大丈夫。
とりあえずネカフェ行くから」

「そうか。じゃあ、気をつけてな」

「玲子ばぁも次に会う時に、
死体は勘弁してくれよ」

「縁起でもねえこというな」

そういうと、
玲子は親戚が待つ車まで歩いて行った。

向井は姿を現すと黒谷を見た。

「生きるのも大変な時代になりましたね」

「仕方ないさ。
世の中長いものには巻かれろだろ」

「黒谷さんは、
ネカフェでいいんですか? 」

「いいの。
あんな政府のバスに乗ってみろよ。
行った先でチップ埋められちまう」

!! 」

向井の驚いた顔に、黒谷が笑った。

「知ってるよ。若い奴らは、
チップが埋められてるんだろう? 
あのバスに乗る連中は、
二十代はいないから、
政府としては、
チップを埋め込みたいわけよ。
あんな得体のしれないもん、
体に入れられたくないからね。
家族子宝の会とかいうのが、
後ろ盾になってるから、
大沢政権は楽勝だよね」

「どこでそういった情報を、
得てるんですか? 」

「俺ってさ。
霊が見えるのは確かなんだけど、
それだけじゃなくて、
人間の悪意も見えちゃうのよ」

「悪意? 」

「そう。
だから危険な人物には近寄らないの。
そうしてると、
霊の中にはお喋りなのもいてさ。
色々と教えてくれるんだ」

「なんだか俺達より、
能力高そうですね」

「そう? 
だったら死神として働かせてよ」

「無理です」

二人は同時に笑った。

「それに、
【お国の為にみんなの為に、
君の我慢が地球の未来】
この政府広報、怖くない? 
知り合いが国民番号証明証で、
もう何年も裁判してんのよ」

「裁判ですか」

「この国って毎年十万人が行方不明で、
少子化なのに人口は変化がないだろう。
国の半数以上が、
移民なんだから当然だよね。
国民番号証明証も、
いつの間にか他人のものになってて、
犯罪者やスパイがなりすましで、
この国にいるんだって。
犯罪が減るわけないよ。
その知り合いも、
生きてるのに死んでることになってて、
それを証明するのに裁判してんの。
大災害から、
知人や家族を亡くしてる人も多いから、
もう無理なんだよ」

2Aから下は、
国民証明顔認証アプリを登録しないと、
この国では生きていけないくらい、
下々には監視がきつくなっていた。

アプリの認証エラーも多く、
そこから毎日のように情報が洩れ、
犯罪に巻き込まれる国民も増えているが、
それすら通常の事で、
自分でなければいいと、
誰も気にしなくなっていた。

「それも霊からの情報なんですか? 」

「そう。
人間より霊の方が信じられる世の中だよ。
調べてみると事実なんだから怖いよね~」

「でも、悪意って、
どうやって見分けてるんですか? 」

「よくオーラの色がって言うでしょ。
あれ、本当。
悪意のある奴やあくどい奴って、
ドロドロしていて、
どす黒くって、濁ってきたないから、
近づきたくもないんだよ」

黒谷を見ても霊は見えないし、
恐らく彼の魂自体が、
危険から遠ざけているのかもしれない。

向井は不思議そうに黒谷を見た。

「とりあえず、
お話が出来てよかったです。
住居が決まったら、
何か必要なものを届けますよ。
俺は人間ではないので、
チップがなくても、
黒谷君の事は分かるんです」

「それ、怖いんですけど」

向井は黒谷に意味ありげな顔で笑うと、
その場を去った。
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