第60話 安達の快気祝い

文字数 1,083文字

仕事を終えて冥界に戻ると、
休憩室から賑やかな声が聞こえてきた。

「何かあったのか? 」

牧野がヒョイッと部屋をのぞくと、
快気祝いの垂れ幕の前に、
安達が立たされていた。

セイがパシャパシャと、
写真を撮っている。

「カッコいいじゃん」

まるでお誕生日会のような帽子を、
かぶらされ、
モニターの前にいる安達に、
プッと笑うと言った。

「………………」

ムスッとしている安達に、

「ほら、
みんな帰ってきたんだから挨拶して」

と早紀は言いいながら、
向井達に部屋へ入るよう手招きした。

「それがすんだら、
ケーキとご馳走を食べていいから。
はい、心配かけて~」

早紀が促す。

「………ご、ごめんなさい」

「よく言えました。
じゃあ、ケーキをカットしよう」

真っ赤になってうつむく安達の姿に、
ちょっと同情しながら、
向井と佐久間は笑った。

安達が帽子を取り外す。

「せっかくだから、付けとけよ。
今回の主役だろう? 」

「うるさい! 」

安達が怒ったところで、
ブザーが響いた。

源じいが、

「焼却が終わったかな。
今日は数が多くてね。
さすがに真紀子ちゃんだけじゃ、
大変だからな」

よっこらしょと立ち上がると、

「ボンは幸せもんだな」

と頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

「私の分も取っといてね。
爺でも腹は減るからさ」

笑いながら部屋を出て行った。

「このケーキは優香ちゃんが、
安達君の為に作ってくれたんだよ~
大好きなキャラメルと、
チョコレートだってさ。
オードブルは、
倉田さんと岸本君からの差し入れ。
わざわざ安達君の様子を見に、
来てくれたんだから感謝しなさいよ」

早紀はお皿に取り分けながら言った。

「私も手伝いますよ」

佐久間がそういいながら、
早紀の方へ歩いて行く。

安達は髪の毛を直しながら、
向井の方へ歩いてきた。

なんだかんだ言っても、
安達にとって向井の近くが、
一番安心できるのかもしれない。

「安達君が元気になって、
みんな嬉しいんですよ」

向井はそういうと彼の顔を見た。

「今度から苦しい時は、
助けて~と叫んでごらん」

「叫ぶ? 」

「そうだな~
牧野君を少し見習うといいかな。
好きなことは好き。
嫌いなことは嫌い。
好き勝手に動いて、
わがまま放題でしょ? 」

今も料理を頬張って、
早紀に怒られている姿が見えた。

「安達君も多少わがまま言っても、
いいんですよ。
誰も怒りませんから。
俺から見たら、
君はまだまだ子供なんだし」

「子供じゃない……」

「そうやって不貞腐れてるのは、
子供ですよ」

向井は安達の首を腕で挟むと、
もう一方の手で頭をぐりぐり撫でた。

「やめろよ」

「やめない」

向井が笑いながらそんなことをしてると、

「入り口で何やってるんですか? 」

弥生が呆気にとられた様子で足を止めた。
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