第118話 息子 大沢健次郎

文字数 1,506文字

一時間ほどして黒谷の部屋を出ると、
団地から少し離れた場所に、
高級車が何台も止まっていた。

何だ?

向井が立ち止まっていると、
見送りに出てきた黒谷が言った。

「あぁ、あれ。
あれは政府特殊災害対策室の人間だよ。
要するに大沢健次郎の手下。
ほらここって、
立ち入り禁止区域だっただろう? 
ここがやばい場所だってことは、
あいつらがうろついているだけで、
もわかるよね」

ふぅ~ん………
向井はふと思い当たることに気づき、
険しい顔つきになった。

「なに? やっぱここなんかある? 」

黒谷が聞いた。

「ん? いや、ちょっと気になるので、
調べておきますよ」

向井がそういったところでトリアがきた。

「おっ、可愛いのが来た」

黒谷が嬉しそうに言うのを見て、

「ほんとだ。姿消してるのに、
この子には私が見えてるんだ。
アートンに言われて、
疑心暗鬼だったんだけど、
これはちょっと問題かな……? 」

トリアが言った。

「君も死神? 
向井さんもカッコいいけど、
君も可愛いよね。
死神って顔で決まるの? 
だったら俺もなれるじゃん」

「この子……大丈夫? 」

トリアが向井を見た。

そんな話をしていると、
今度はどこからともなく、
赤姫が近づいてきた。

「あいつらまた凝りもせず、
この土地に足を踏み入れるとは」

「あんたこんなとこまで何しに来たのよ」

トリアが言うと、

「ここは私の領土じゃ。
お前に文句をいわれる筋合いは……」

赤姫はそこまで言って向井に目をやると、

嬉しそうに笑った。

「おお~いい男じゃ。お前が向井か? 」

「えっ? あ、はい」

これは誰? 

向井が驚いていると、

「赤姫、うちのイケメンにお触り禁止!! 」

トリアが向井の前に立ち、赤姫を止めた。

「赤姫? 」

向井より先に、黒谷が言った。

「ん? 
こやつには私が見えておるのか? 」

赤姫も驚いたように言い、
三人は黒谷をじっと見た。

「なに? この人も死神? 」

「無礼な」

赤姫が憤慨するように黒谷を睨んだ。

「えっ? 違うの? 
死神ってみんな綺麗なんでしょ? 
あっ、でも高田さんは、
普通のおじさんだったか……」

黒谷が考え込む姿に、

「私が綺麗とは、ずいぶんと正直者じゃ」

嬉しそうにいい、

「この珍妙な男はなんじゃ」

と聞いた。

「俺? 俺は黒谷」

そういうと三人を見た。

「黒谷君には驚くことばかりですね」

向井は顎に手を当て、
感じ入る様子で見た。

「えっ? 」

黒谷は三人に見つめられて、
きょとんとその場に立っていた。


――――――――


大沢健次郎は、
十七年前に災害を止めた父親を思い出し、
その場所にやってきていた。


あの時親父は祖父さんの部屋に、
吉沢と長い事こもっていた。

誰も入室を許さず、
何を調べていたんだろう。

この土地に来るようになったのも、
そのくらいの時期だ。

団地のリノベーションもすみ、
入居者の募集を始めるはずが、
いきなり立ち入り禁止区域になった。

その頃になると、
毎日のように地震、洪水、
土砂崩れ、噴火、山火事と、
次から次へと災害が起こり、
この国を捨てて、
海外へ出て行くものも増えた。

事実、大学生だった健次郎も、
母親と一緒に渡米した。

この国に残っていたのは、
金銭的に、
住み続けるしかない者たちだけだった。

海外へ逃げたインフルエンサーたちが、
こぞってこの国を、
案じていると言いながら、
動画を上げ、傍観していた。

政治家も国を捨てたと言われるくらい、
外遊と称して長い事、
国を空けている状態が続き、
犯罪も横行する始末。

そんな中、大沢だけが国を出ず、
国民を手中に収めることに成功した。

親父は何故逃げなかったのか。

それはこの国は絶対に沈まない、
と分かっていたからに違いない。

吉沢は親父とずっと一緒にいたのに、
その事は極秘で今は話せないという。

健次郎はその理由を探していた。
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