第67話 作家 河原

文字数 1,694文字

「おぬしのあの中途半端な小説が映画に? 」

虎獅狼が言った。

「失礼な。
書きかけで死んじゃったから、
未完になってるだけで、
続きは書いてます」

「本当ですか? 」

向井が顔を覗くと、

「あのね~
あれは長編中の長編で考えてたの。
二十巻、三十巻と、
長く書くつもりだったから、
プロットもその都度書き足してたの。
まさかこんなに早く死ぬなんて、
思ってなかったしさ」

河原はむくれた顔をした。

「そんなに長く続く予定の本、
だったのですか? 」

冥王も驚いたように河原の顔を見た。

「そうだよ。
君たちも読んだならわかるでしょ。
あれは魔界のファンタジーで、
何代にもわたる主人公の、
戦いの物語なんだもん。
異世界にも行くし、
閻魔界にも行くの」

「あれは面白い、面白いがしかし、
閻魔は酷すぎる。
私はあんな残虐非道ではないですよ」

「仕方ないじゃん。
あくまでも私の想像なんだから」

「想像……想像の中の私は、
みんなにとって、
あんなに恐ろしいのか…
印象が悪くなるから、
もう少し優しくできないかね」

「想像なんて何にも役に立たないよね。
死んでここに来たら、
実際はこれだし……」

河原が冥王を指さした。

「失礼な。ここのものは、
私を何だと思っているんですか」

冥王がふくれっ面になる。

「まあまあ、
それだけ親しみやすいという事だろ」

虎獅狼が笑いながら宥めた。

「だって鬼は人間を食べるって言われてたし、
妖怪も人の血を吸うって」

「全く、人間とは恐ろしい生き物だな。
妖怪の方が余程情が深いというものよ。
抑々、鬼は人なんだぞ。
人間には、
妬みや僻みと言った陰湿なものを、
内に秘めてるものが多い。
それが鬼を生むんだ」

虎獅狼は情けないと言いたげに首を振った。

「別に鬼や妖怪が何を食べようが、
いいじゃないですか? 
ただの物語なんですから」

「私は嫌ですよ。
食事は体を作る大切なものなんですから、
栄養ある美味しいものが食べたいです。」

「冥王はグルメだもんね」

河原はそういって、冥王を見た。

「俺だって季節のものを食べたいぞ」

虎獅狼が言うと、
冥王もそうだそうだと頷く。

「でさ、そんなことを考えてたら、
物語が迷走して、
少しストーリーが、
変わってきちゃったのよ。
だから映画化は嫌なんだよね」

「なるほど」

虎獅狼が気持ちはわかるぞというように、
頷いた。

「とりあえず完結まで時間はかかるけど、
書いてるから。
まぁ、気長に待っててよ。
それに他の話も書きたいし。
この前の冥界ラブロマンスは、
冥王と盛り上がっちゃったよね~」

「あれは傑作ですよ。
出来れば連ドラにしたいくらいです」

二人はニコニコ笑いながら楽しそうだ。

「うちには新田君というスターはいるけど、
女優がいないのが残念です。
いたら冥界ドラマを作りたいですね~」

冥王は次から次へと、
色んなことを思いつく人だなと、
向井は飽きれながら見ていた。

「あ~冥王いた~」

そんな話をしていると、
三鬼とこんが、
ギャラリーに飛び込んできた。

座っている冥王の背中に飛び乗ると、

「かんなくず集めてきたよ~」

「冥王来ないから探しに来た」

嬉しそうに言った。

冥王は二人を背負うと、

「そうか。じゃあ、作りに行くか」

「子供に材料集めさせて、
冥王はここでおしゃべりですか。
お殿様はいい御身分ですね」

向井が言うと、
こんが冥王のブローチを見て聞いた。

「これなあに? 」

「冥王の顔? 
カッコイイ~僕も欲しい!! 」

「こんも欲しい~」

冥王が向井の顔を見て、
しまったという表情をした。

『だから、言ったじゃないですか』

向井が口だけ動かして言う。

「じゃあ、
山川と作家さんにお願いしてみようか」

「お願いしたら作ってくれる? 」

「いい子でお願いしたら、
作ってくれるかもしれませんよ」

「じゃあ、早くいこ~!! 」

「工房に行くなら、俺も行くぞ」

虎獅狼もいい、
冥王は三鬼とこんに引きずられ、
妖怪とともに部屋を出て行った。

「あれが冥王だからなぁ~
何か威厳あるイメージで、
物語を作ってたから、
根底から覆っちゃうんだよね」

河原もそういうと、
図書室へと戻っていった。

「あっ、アメジストドームのこと、
言おうと思ってたのに忘れた。
まあ、いいか」

向井もこれ以上邪魔が入らないうちにと、
仮眠を取りに休憩室に向かった。
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