第90話 十九年前の出来事
文字数 1,285文字
そんな特別室での向井と同じ頃、
執務室では冥王たちが話をしていた。
「それは近々、
儀式を行うという事? 」
トリアが聞いた。
「この一、二年の間に、
何か動きがあると思います。
二年前の結界は、
私が介入したことで、
不完全になってしまった。
その歪みが二年かけて、
少しずつ緩んできたんでしょう」
冥王の話に、
ディッセが納得したように言った。
「安達君が倒れたのには、
それも関係してるわけか」
昔からこの国は度々大災害に見舞われ、
ある年には、
一度壊滅状態に陥っている。
それを当時大沢が収め、
この国を手中にすることに成功していた。
大沢帝国の始まりはここにある。
古くには儀式も、
厄災が起こるたびに行われていたが、
次第にそれは忘れ去られていった。
だが、戦争による爆撃が引き金となり、
「地獄の釜の蓋が開く」こととなる。
その地獄が国を侵食し、
大沢が見つけた、
代々受け継がれてきた極秘文書から、
儀式の復活をさせた。
それが今から十九年ほど前の事。
おかげで国は再起したが、
安達は、
その混乱に巻き込まれる形で誕生し、
再生不可の魂を抱えることとなった。
そして二年前。
政府の秘密裏の金策が始まり、
その開発により、
再び災害に見舞われることになる。
その時に行われた戦後三度目の儀式で、
安達はまた被害者となっていた。
「安達君が、
生まれた時のことを知っているのは、
シェデム、アートンと君ら二人だけだ。
命の誕生は災害があろうがなかろうが、
関係ないですからね。
ケアレスミスを、
正当化するわけじゃないが、
仕方がなかったと思ってます」
冥王が静かに口を開いた。
「あの時は冥界も、
尋常じゃないほどの霊魂が上がってきて、
俺達も混乱してましたからね。
閻魔帳も把握できていなかったし」
ディッセが、
当時を思い出すように言った。
「それでもアートンが、
いち早く大沢の行動を、
察知してくれたので、
動くことはできましたが、
安達君の事だけが間に合いませんでした」
冥王が淡々と話した。
この時まで、
儀式に関する極秘文書は、
闇に消えたと思われていた。
だがトリアの調査により、
大沢家に隠されていたことが、
突きとめられている。
そんなこともあり、
前冥王からの特別室黙認に、
終止符を打つため、
死神調査隊を発足させた。
「大沢の父親が特別室に入った時から、
特別室の様相は形を変えてしまった。
それまでは権力者は威張り散らすだけで、
こちらはそれをコントロールすれば、
よかっただけでしたからね」
冥王は小さなため息を漏らした。
大沢家は帝国軍時代より続く家系であり、
表に出せない重要文書も隠匿していた。
儀式によって国の安定を保ち、
それを利用して大沢家は権力を握り、
今も財を成している。
「人柱なんて、
俺からしたら考えられないね。
神への捧げものとしての人身御供だろう。
神に命を捧げ祈願する歴史を作るなんて、
人間は簡単に鬼になるから嫌だよ」
ディッセの言葉に冥王は苦笑する。
「私はそんなことをされても、
嬉しくはないが、
神の中にも多くの考えがあります。
特別室の事にしても、
前冥王からの慣例で、
そのまま引き継いだが、
こんな悪弊はいずれ、
断ち切らなければいけない」
冥王は少し考えこむと話し始めた。
執務室では冥王たちが話をしていた。
「それは近々、
儀式を行うという事? 」
トリアが聞いた。
「この一、二年の間に、
何か動きがあると思います。
二年前の結界は、
私が介入したことで、
不完全になってしまった。
その歪みが二年かけて、
少しずつ緩んできたんでしょう」
冥王の話に、
ディッセが納得したように言った。
「安達君が倒れたのには、
それも関係してるわけか」
昔からこの国は度々大災害に見舞われ、
ある年には、
一度壊滅状態に陥っている。
それを当時大沢が収め、
この国を手中にすることに成功していた。
大沢帝国の始まりはここにある。
古くには儀式も、
厄災が起こるたびに行われていたが、
次第にそれは忘れ去られていった。
だが、戦争による爆撃が引き金となり、
「地獄の釜の蓋が開く」こととなる。
その地獄が国を侵食し、
大沢が見つけた、
代々受け継がれてきた極秘文書から、
儀式の復活をさせた。
それが今から十九年ほど前の事。
おかげで国は再起したが、
安達は、
その混乱に巻き込まれる形で誕生し、
再生不可の魂を抱えることとなった。
そして二年前。
政府の秘密裏の金策が始まり、
その開発により、
再び災害に見舞われることになる。
その時に行われた戦後三度目の儀式で、
安達はまた被害者となっていた。
「安達君が、
生まれた時のことを知っているのは、
シェデム、アートンと君ら二人だけだ。
命の誕生は災害があろうがなかろうが、
関係ないですからね。
ケアレスミスを、
正当化するわけじゃないが、
仕方がなかったと思ってます」
冥王が静かに口を開いた。
「あの時は冥界も、
尋常じゃないほどの霊魂が上がってきて、
俺達も混乱してましたからね。
閻魔帳も把握できていなかったし」
ディッセが、
当時を思い出すように言った。
「それでもアートンが、
いち早く大沢の行動を、
察知してくれたので、
動くことはできましたが、
安達君の事だけが間に合いませんでした」
冥王が淡々と話した。
この時まで、
儀式に関する極秘文書は、
闇に消えたと思われていた。
だがトリアの調査により、
大沢家に隠されていたことが、
突きとめられている。
そんなこともあり、
前冥王からの特別室黙認に、
終止符を打つため、
死神調査隊を発足させた。
「大沢の父親が特別室に入った時から、
特別室の様相は形を変えてしまった。
それまでは権力者は威張り散らすだけで、
こちらはそれをコントロールすれば、
よかっただけでしたからね」
冥王は小さなため息を漏らした。
大沢家は帝国軍時代より続く家系であり、
表に出せない重要文書も隠匿していた。
儀式によって国の安定を保ち、
それを利用して大沢家は権力を握り、
今も財を成している。
「人柱なんて、
俺からしたら考えられないね。
神への捧げものとしての人身御供だろう。
神に命を捧げ祈願する歴史を作るなんて、
人間は簡単に鬼になるから嫌だよ」
ディッセの言葉に冥王は苦笑する。
「私はそんなことをされても、
嬉しくはないが、
神の中にも多くの考えがあります。
特別室の事にしても、
前冥王からの慣例で、
そのまま引き継いだが、
こんな悪弊はいずれ、
断ち切らなければいけない」
冥王は少し考えこむと話し始めた。
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