第58話 向井の記憶

文字数 1,206文字

安達を冥王に任せ、
向井が休憩室に入ると、
メンバーたちが戻ってきたようで、
矢継ぎ早に質問してきた。

「安達君が倒れたって? 」

田所が聞く。

「俺達死人だから、
病気で死ぬなんてあるのか? 」

「牧野、
縁起でもないこと言わないでよ」

「原因はなんですか? 」

佐久間も珍しく慌てた様子で言った。

「ちょっ…ちょっと待って、
待ってください」

向井が詰め寄る彼らを制止して、
後ずさりした。

「ほら、向井君が困ってるでしょ。
皆お座りなさい」

「有難うございます。真紀子さん」

向井は天井を向くと一呼吸おいて、
話せる部分だけ伝えることにした。

「結論から言うと、
安達君は元々特殊な霊媒体質を、
持っているそうです。
なので霊対霊の対決が続くと、
コントロールが効かなくなってしまい、
体に負担がかかってしまうとのことです。
一応、今のところは問題ないので、
安心してください」

「ああ、よかった。何でもないんだ」

早紀がホッとしたように笑顔になった。

倒れた瞬間を見ていたので、
心配だったのだろう。

「今は冥王が見てますので大丈夫ですよ。
もうしばらく休ませますので、
皆さんもそのつもりでお願いします」

「でもそうなると、
あいつと組むのは危なくねぇか? 」

「そうですね。
当分の間、
俺が安達君とバディを組みます」

「それじゃぁ、向井が危険じゃないか」

「危険な場所は牧野君の担当だから、
安心でしょう? 」

「ちぇっ、そういう事かよ」

牧野は面白くなさそうに言うと、

「仕方ねえから、
安達には楽な仕事をさせとけ」

ソファーにドスンと座り込んだ。

「牧野君はいい子ですね」

「い、いい子なんて言うな。
子供じゃねえぞ!! 」

向井は牧野の背後に立つと、
頭に手を乗せた。

「やめろよ」

牧野が手を払いのけるのを見て、

「本当に素直じゃないな~」

後から入ってきた新田が笑った。

「今、安達君の様子を見てきましたけど、
お腹が空いたって、
弥生ちゃんと一緒に食堂に行ったよ。
若いっていいよね」

新田がそういうと、
牧野と早紀が駆けだしていった。

「忙しないですね」

佐久間も笑うと、

「私も安達君の顔を見てきます」

「じゃあ、俺も」

と田所も一緒に部屋を出て行った。

愛情を知らずに育った安達も、
ここでは心配され、
大事に思ってくれるものがいる。

甘えられる場所を死んでから与えられる。

これを幸せというかは分からないが、
今の安達には必要なのだろう。

「安達君はちょっとひねくれ屋さんだけど、
私には可愛らしい子供ね。
みんなに愛されて幸せだと思うわよ」

考え込む向井を見て真紀子がほほ笑むと、

「お紅茶入れましょうかね。
新田君も飲む? 」

「飲みます。手伝いますよ」

真紀子について行った。

向井は安達の様子を見ていて、
何故か自分の抜けている記憶を、
思い出していた。

あれは何なのだろう。

思い出せそうで、思い出せない……

多分、自分の死に、
関係していることなんだと思うのだが……

やはり、思い出せない……

向井はソファーに寄りかかると、
疲れたように目を閉じた。
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