第96話 冥王は図書室で…

文字数 1,175文字

中をのぞくと、
数人の死神とサロン霊が、
本を読んでいる姿が見えた。

奥では河原が立ったり座ったりしながら、
一人芝居のような動きで、
キーボードに文章を打ち込んでいた。

以前、

「私って動き回らないと、
書けないんだよね。
こう………主人公の動きとか、
敵の行動とか、
頭の中で舞台のように動いてるの。
担当編集者には、
ウザいと言われたけど、
これが私のスタンスだから、
しょうがないのよ」

と言っていたのを思い出した。

確かに見てると…ウザい? 
というより面白い? 

向井は笑うと、
そのまま冥王を探した。

いつもなら本棚付近のカウチで、
寄りかかりながら、
読んでいるんだが………

ん? 

見ると今日は、
牧野が気持ちよさそうに寝ている。

漫画が床に落ちているので、
寝落ちしたのだろう。

向井は本を拾うと牧野の横にある、
ミニテーブルに置いた。

さて、冥王は? 

周りを見渡すと、
和室のソファー座椅子に、
寝転がっている姿が見えた。

「冥王」

向井が声をかけると、
本から顔を上げた。

「今日はこちらで読まれてたんですね」

「ん? あぁ、お気に入りのカウチは、
牧野君に取られちゃったのでね」

冥王はリクライニングを戻すと、
伸びをした。

「何か用ですか? 」

「少し聞きたいことが………」

そこまで言って、
和室の横にある壁に貼られた、
大きなボードに目が止まった。

今月の冥王おすすめ漫画? 

「これなんですか? 」

「ん? 」

冥王が和室から出てきて、
向井が指さす壁を見た。

「なにって、これは私の一押しですよ。
本の帯に店長のおすすめとか、
あるじゃないですか。
だから私も、
冥王おすすめというのを作って、
セイに貼らせたんです」

冥王が自慢げに胸を張った。

「今は赤い神聖ばぁに、
勝てるものはないんですけど、
これはお薦めの一つなんです」

そういって、
今まで読んでいたコミックを手渡した。

『あっちむいて妖怪』?

「これが面白いんですよ。
この国があっちもこっちも、
妖怪だらけになって、
人間が住みにくいので、
妖怪のふりをして生活する、
主人公の話なんです」

向井は本をパラパラめくりながら、
最後のページで手を止めた。

「あれ? 
これって河原さんの原作なんですか? 」

「そうなのよ~」

向井の背後から河原が顔を出した。

「おわっ! 
びっくりさせないでくださいよ」

「これさ~
私の初期のころの作品なんだけど、
あの時は今一つヒットしなかったの。
だけど死んだら大ヒット? 
コミック化もされてさ。
私も遅すぎた天才だったのかもね~」

「それ、自分で言いますか? 」

向井はあきれ顔で笑った。

「でも、
河原さんは御健在の時から、
アニメにも映画にもなった、
人気作家さんでしょう」

「まぁね~」

「そうそう。新田君のドラマも、
安達君が夢中になっているアニメも、
河原さんの原作ですよ」

冥王がまるで自分の事のように、
楽しそうに話す。

「私って、やっぱ才能あったんだね~」

河原はのけぞって大笑いした。
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