第56話 安達の秘密
文字数 1,375文字
そういえば……
『食堂で会ったぞ』
『もう少しで出来あがるのに~』
安達の行動を思い出してみると、
傍には冥王がいることが多い。
「冥王、安達君は……」
そこまで言ったところで、
ドアにノックの音が聞こえ、
「失礼します」
室長の究鬼が入ってきた。
研究・開発室は縊鬼の中でも、
過去研究に従事していたものが多くいる。
中でも究鬼は豪傑という言葉が、
ピタリと当てはまる印象の鬼だった。
彼の両手には小さな箱が乗っている。
「冥王、
これもまだ完成とは言えませんが、
今のリングに比べれば、
かなり改良されています。
彼のエネルギー量にもよりますが、
体にかかる負荷は軽減できるかと」
「分かった。
とりあえず今はこれで十分です。
助かりましたよ。有難う」
冥王が箱を受け取ると、
究鬼は一礼し部屋を出て行った。
冥王は安達の額のリングを消すと、
箱の中から新たなリングを取り出し、
額に装着させた。
ふわ~と輝く光が安達を包みこむ。
「暫くしたら、目も覚めるだろう。
多分、
倒れた記憶も曖昧でしょうから、
深く追求しないで見守っておいてください」
向井は安達の姿をじっと見つめた後、
冥王に向き直った。
「俺には聞く権利があると思いますが」
「そうですね。
少し話しておきましょうか」
そいうと奥の部屋へと向井を連れて行った。
――――――――
ここはどこ?
安達は夢なのか現実なのか、
よくわからない狭間の中で、
意識が彷徨っていた。
遠くで声が聞こえてくる。
あれは……誰……俺…?
嫌だ!!
怖い!!
助けて……誰か助けて…
『この子を見てると怖いのよ』
『いつもどこを見てるのか分からないし』
『自分の子とは思えない』
安達は子供の頃から、
霊が見えていたこともあり、
家族からも気味悪がられていた。
何もない空間を、
睨みつけているその姿に、
両親さえもこの子は普通じゃないと、
次第に抱きしめることもできなくなった。
安達が小学校に上がる頃になると、
『あの子に触れると気分が悪くなる』
『本当に俺の子か? 』
『なによそれ。
私が浮気でもしたって言うの? 』
そんな家庭のいさかいも多くなり、
その言い争いに反応して、
安達の精神は、
さらに不安定になっていった。
安達の魂は通常と異なるのだが、
それを理解しろというのは、
到底無理な話で、
両親は解離性同一性障害なのではと、
考えるようになっていた。
精神科へ連れて行かれたことをきっかけに、
安達は自ら殻に閉じこもるようになった。
それからというもの、
家族の中では存在しない子になり、
彼は自らを透明人間とすることで、
家族との絆を断った。
学校でも、
『安達君って不気味』
『何にも喋らないし』
『いじめた子が殺されたって噂だよ』
霊も妖怪も誰にも見えないと知ってから、
自分は異質なのだと理解した。
周りの残留思念に反応して、
感情のコントロールもできない。
自分の中の何かが暴れだし、
周囲で怪事件が頻繁に起こるようになり、
不吉な子と言われるようになった。
耳元でささやく霊の声。
イタズラをしてくる妖怪。
怖くてもそこに誰かがいる、
と思う安心感に、
自分の周囲に霊を纏わりつかせていた。
霊は自分が一人ではないと思える、
唯一の存在だった。
中学に入ると、
マンションの一室を与えられ、
そこから学校に通うように言われた。
お金も送金されていたし、
生活に困ることはなかったが、
彼の周りには霊と妖怪以外、
誰もいなかった。
安達はそれから五年後に死ぬことになる。
『食堂で会ったぞ』
『もう少しで出来あがるのに~』
安達の行動を思い出してみると、
傍には冥王がいることが多い。
「冥王、安達君は……」
そこまで言ったところで、
ドアにノックの音が聞こえ、
「失礼します」
室長の究鬼が入ってきた。
研究・開発室は縊鬼の中でも、
過去研究に従事していたものが多くいる。
中でも究鬼は豪傑という言葉が、
ピタリと当てはまる印象の鬼だった。
彼の両手には小さな箱が乗っている。
「冥王、
これもまだ完成とは言えませんが、
今のリングに比べれば、
かなり改良されています。
彼のエネルギー量にもよりますが、
体にかかる負荷は軽減できるかと」
「分かった。
とりあえず今はこれで十分です。
助かりましたよ。有難う」
冥王が箱を受け取ると、
究鬼は一礼し部屋を出て行った。
冥王は安達の額のリングを消すと、
箱の中から新たなリングを取り出し、
額に装着させた。
ふわ~と輝く光が安達を包みこむ。
「暫くしたら、目も覚めるだろう。
多分、
倒れた記憶も曖昧でしょうから、
深く追求しないで見守っておいてください」
向井は安達の姿をじっと見つめた後、
冥王に向き直った。
「俺には聞く権利があると思いますが」
「そうですね。
少し話しておきましょうか」
そいうと奥の部屋へと向井を連れて行った。
――――――――
ここはどこ?
安達は夢なのか現実なのか、
よくわからない狭間の中で、
意識が彷徨っていた。
遠くで声が聞こえてくる。
あれは……誰……俺…?
嫌だ!!
怖い!!
助けて……誰か助けて…
『この子を見てると怖いのよ』
『いつもどこを見てるのか分からないし』
『自分の子とは思えない』
安達は子供の頃から、
霊が見えていたこともあり、
家族からも気味悪がられていた。
何もない空間を、
睨みつけているその姿に、
両親さえもこの子は普通じゃないと、
次第に抱きしめることもできなくなった。
安達が小学校に上がる頃になると、
『あの子に触れると気分が悪くなる』
『本当に俺の子か? 』
『なによそれ。
私が浮気でもしたって言うの? 』
そんな家庭のいさかいも多くなり、
その言い争いに反応して、
安達の精神は、
さらに不安定になっていった。
安達の魂は通常と異なるのだが、
それを理解しろというのは、
到底無理な話で、
両親は解離性同一性障害なのではと、
考えるようになっていた。
精神科へ連れて行かれたことをきっかけに、
安達は自ら殻に閉じこもるようになった。
それからというもの、
家族の中では存在しない子になり、
彼は自らを透明人間とすることで、
家族との絆を断った。
学校でも、
『安達君って不気味』
『何にも喋らないし』
『いじめた子が殺されたって噂だよ』
霊も妖怪も誰にも見えないと知ってから、
自分は異質なのだと理解した。
周りの残留思念に反応して、
感情のコントロールもできない。
自分の中の何かが暴れだし、
周囲で怪事件が頻繁に起こるようになり、
不吉な子と言われるようになった。
耳元でささやく霊の声。
イタズラをしてくる妖怪。
怖くてもそこに誰かがいる、
と思う安心感に、
自分の周囲に霊を纏わりつかせていた。
霊は自分が一人ではないと思える、
唯一の存在だった。
中学に入ると、
マンションの一室を与えられ、
そこから学校に通うように言われた。
お金も送金されていたし、
生活に困ることはなかったが、
彼の周りには霊と妖怪以外、
誰もいなかった。
安達はそれから五年後に死ぬことになる。
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