第13話 クリエイターズファントム

文字数 1,281文字

人間の時には、
スマートゴーグルが一般的だったが、
死んだ後はタブレットが多くなった。

スマートゴーグルはスマホが無くなり、
新たに導入された端末だ。

多くの国民が、
スマートゴーグルを装着していた。

ゴーグル一つで電話から通信全般使えるが、
反対に全てが国に管理されてしまうため、
国民の中には安価なタブレットを、
使用している者も多かった。


「おっと……!? ん? 松田雪江? 」

電話の相手が今まさに、
調べていた名前だったので、
慌ててタップした。

「助かったぁ~」

電話の向こうから安堵の声が聞こえてきた。

「はい、こちらは……」

向井の声に雪江が慌てるように喋りだした。

「あっ、すいません。
そちらクリエイターズファントムですよね」

「はい。向井と申します」


一応社名を、
クリエイターズファントムとしている。

派遣課になる前は求人課だったらしく、
派遣課になって第一号の高田が、
「仕事を受けるのに、
社名があったほうがいいですよ」
と、冥王に提案。

高田がネーミングし、
クリエイターズファントムになったそうだ。

派遣霊の多くは作家、
歌手、デザイナーなど、
創作者が多いこともあり、
クリエイターに決めたらしい。

冥王も、
「それ面白いよ。いいんじゃない」
と即決だったというから、
冥界もいい加減である。


クリエイターズファントムは、
冥界という特権で、
基本国内であれば、
どこでも仕事は受けられる。

電話番号もそのままなので、
登録しておけばつながるが、
登録した本人に何かあれば、
すぐに消滅されるので、
この世に形跡は残らない。

向井が何か言おうとしたところで、
相手が慌てた様子で話し始めた。

「あの、私、松田雪江と申します。
以前そちらで、
漫画のプロアシさんを、
紹介していただいて、
今回もお仕事をお願いしたいんです」

早口で一気に話す相手に、
一瞬驚いたものの、
向井は静かな口調で言った。

「漫画のアシスタントですか? 
今一人、
手の空いているものがおりますが」

雪江は安堵のため息をついた。

「急かす様で申し訳ないんですが、
急な仕事で時間がないので、
今すぐに現場へ入ってほしいんです。
大丈夫でしょうか」

「そういう事でしたら、
すぐにでもその者を向かわせます」

「助かります。
リモートでもいいんですけど、
時間がないので、
数日仕事部屋から、
出られなくなるかもしれません。
そのこともお伝えいただけますか? 」

「はい、え~と……」

向井は登録者名簿を確認すると、

「ご登録は、
松田様の仕事場になっていますが、
そこでよろしいですか」

「はい、以前と同じ住所です」

「わかりました。
では、
山川という者を連れていきますので、
その時に書類にサインをお願いします」

仕事は終了と同時に、
相手の容姿もリセットされるので、
松田にも山川との接点はなくなっている。

電話口で簡単な料金説明をし、

「ちなみに差し支えなければ、
今回のお仕事内容、
時代背景など教えていただきたいんですが」

「大正ロマンのファンタジーになります」

時代物のファンタジー?  

どんな物語なんだろう??  

向井は首を傾げた。

「では、よろしくお願いします」

相手の電話が切れるのを待って、
端末から葵の位置情報を確認した。
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