第70話 『ゾンビ少年と赤い神聖ばあ』劇場版記念

文字数 1,335文字

それから数日は悪霊の発生も少なく、
向井達ものんびりと、
下界をパトロールしていた。

このところ光の渦に乗って、
冥界へ運ばれていく霊の数が、
多くなっていた。

おかげで派遣霊も一定数で止まり、
保護霊の数も減って、
特例たちは久しぶりに、
休息しながらの仕事になっていた。

「ずっとこうだと楽なんですけどね」

向井はそういうと、

「お昼はバーガーでも買って帰ろうか」

と安達を見た。

「俺、コロバーガーがいい」

「どこでも好きなお店でいいですよ」

その言葉に安達は嬉しそうに笑うと、
向井を連れてバーガーショップに行った。

ショップの前について、
『ゾンビ少年と赤い神聖ばあ』劇場版記念
という看板を見て向井が笑った。

なるほどね。

コラボバーガーのセットがあるわけか。

見ると選べる景品もあるらしい。

種類は六つ。

みんなはどれが欲しいのか分からないが、
特例と冥王と、
食べたがる死神がいるかもしれないので、
多めにセットを注文して帰ることにした。

テイクアウトを待っている間、

「やっぱり、みんな景品欲しいよね」

安達が向井の顔を見て言った。

「牧野君は欲しいと思うよ。
俺の分は安達君にあげるから、
二つ選べるね」

「早紀ちゃんもくれるかな? 」

「聞いてごらん。
冥王も欲しがると思うから取られる前に、
源じいとか真紀子さんにもお願いすれば、
全種類手に入るかもしれないよ」

「そっか」

安達の笑顔を見て、
随分素直に感情を出せるようになってきたな、
と向井も驚いていた。

子供のような幼さと素直さが、
時よりあらわれるので、
最初は戸惑いもあったが、
鋭かった目つきも柔和になっていた。

リングの装着も以前のものより、
フィット感があって、
冥界に霊を送るのもスムーズで、
楽になっているようだ。

もっと改良が進めば、
体への負担も少なくなるだろう。

注文が出来上がると、
安達はバーガーより、
景品を嬉しそうに眺めながら、
冥界に戻っていった。

――――――――


休憩室では特例と死神が、
大画面の前でドラマを真剣に見ていた。

「これは人気ドラマなんですか? 」

部屋に入ると向井は、
壁際のベンチに腰かけていた、
アートンに声をかけた。

死神の中ではなんでもそつなくこなすので、
向井がいない時の特別室担当になっている。

「作家の河原さんのデビュー作ですよ。
亡くなって一年経ったので、
追悼でドラマ化されたものが、
再放送されてるんです」

「へえ~」

「近々、
未完の小説が映画化されるって、
話題になっているじゃないですか。
この作品もミステリー要素があって、
面白いですよ」

見ると、冥王も夢中になっている。

「あっ、新田が出てる」

横にいた安達が驚いた声を出した。

「えっ? 」

よく見ると主人公を新田が演じている。

「これ、五年前のドラマなんですよ。
新田君、いい男ですよね」

アートンも感心するように、
映像を見て言った。

「いやあ~自分のドラマを、
こうやって久々に見ると、
ちょっと照れ臭いですね」

新田が部屋に入ってきて言った。

「カッコいい……」

安達もボ~ッと画面を見ながら言う。

「そお? 嬉しいな。
最近は俳優もAIが増えたでしょう。
俺も役者としては頑張ってた方かな
まあ、舞台俳優さんは別だけどね」

新田はそういったところで、

「なんか、いいにおいがする」

「そういえば…」

アートンもニオイをかぐように、
鼻を動かした。
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