第59話 光の渦

文字数 1,212文字

安達の事件から、
しばらくは穏やかな時が続いていた。

リハビリを兼ねて、
安達は冥王と工房で、
ミニチュア作りを楽しんでいるようだった。

このままリングの状態が体に馴染めば、
仕事に復帰する。

それまでは向井は、
エナトと組んで下界にいた。

「安達君がいないと、
霊の見分けがつかないな。
保護と派遣霊を一緒に、
サロンへ送っちゃってるんですけど、
大丈夫ですよね」

「正直、俺も区別がつかないんですよ。
光の渦は一日数回。
そこから外れた霊が、
保護か派遣なんですけどね。
とりあえずサロンにいれば、
そこで話が聞けるので、
エナトさんにお願いできて、
俺としては助かります」

「なら、よかった。
そうと決まれば、
どんどん送っちゃいましょう」

エナトは笑うと指を回した。
その先端の渦が波紋となって広がり、
霊を包んでいく。

「消去から再生に向かった霊が、
このところ多かったので、
サロンも少しゆとりができて、
よかったですね」

「そうですね」

向井も笑った。

二人がパトロールしていると、
前方に佐久間と牧野の姿があった。

いつもの如く牧野が、
ぎゃあぎゃあ何やら騒がしい。

「牧野君はいつもパワフルですね」

エナトは笑いながら、
指は霊を冥界へと送っていく。

「どうかしたんですか? 」

向井達は二人に近づくと声をかけた。

「霊電を増やす工事がされたので、
牧野君のご機嫌が斜めなんです」

佐久間が苦笑した。

「うるせえ! 
妖鬼の奴がステージ作るから、
照明分霊電を増やせって言いやがった」

ああ、あの発表会の一件か。

既にステージを作っているとは……
みんな行動が早いな。

向井は下を向いてクククッと笑った。

「何だよ。全然おかしくねえぞ」

牧野が面白くなさそうに唇を突き出した。

「ごめんごめん。そうじゃなくてね。
今セイくんが、
ヒップホップのレッスンしてるでしょ。
あれを見て冥王が、
冥界の発表会をしようと、
言い出したんですよ。
で、
俺もいいアイデアなんじゃないかと、
後押ししちゃったんで、
牧野君には悪かったなと」

「えっ? 発表会? 」

エナトの顔が嬉しそうに輝いた。

「エナトさんも何か演目があるなら、
自由参加でエントリーできますよ」

「へえ~発表会か~私も参加しようかな」

佐久間の一言にその場にいた三人は驚いた。

「なに? そんなに驚くこと? 
私はこう見えても紙切りが得意なんですよ。
学生時代にアルバイトで披露してました」

「地味な趣味だな」

牧野の言葉に、

「紙切りは伝統ある芸ですよ。
リクエストにもある程度、
お答えできますから、
発表会にはいいでしょ? 」

佐久間はすまし顔で言った。

「だったら、俺も出るぞ!! 」

「牧野君も何か芸があるんですか? 」

「……これから考える」

そんな話をしていると、
どこからか街頭演説が流れてきた。

「そろそろ選挙か……
特別室が騒がしくなるのは、
嫌なんですけどね」

向井がしみじみと言ったところで、
悪霊が騒ぎ始めた。

「やべぇ。
こういうのに霊は反応するんだよな~」

四人はため息をつきながら、
悪霊退治に向かった。
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