第46話 記者会見
文字数 1,906文字
しばらくして、
制作発表が始まるというので、
大画面の前にみんなが集まっていた。
「ティンだ。かっこいいね~。
俳優さんの中でも断トツでイケてるよ」
田所がカフェラテを飲みながら言った。
「中身はくるみ君ですけどね」
セイが不満そうに言う。
「まあまあ。
でもシェデムさんがティン君御指名で、
雑誌のインタビューを受けたらしいし、
あの容姿だから人気は出るよね」
向井がなだめる様に話した。
「あのさ~
このまま人気がでても大丈夫なの? 」
ソファーに座っていた早紀が、
後方に立っている向井を、
のけぞるような体制で見た。
「問題はないですよ。
この仕事が終われば、
記憶をはじめとして、
痕跡はすべて消えて無くなるからね」
「えっ、そうなの? 」
牧野が一驚する。
「そうですよ。
ただ冥界図書には、
特殊保管庫があるので、
過去の出演作は見られますよ。
今までにも、
歌手や声優などの案件はありましたからね」
「歌手って歌声は死神でしょ? 」
早紀が聞く。
「そうですね。
でも、死神は能力値が高いんですよ。
しかも特殊保管庫にあるものは、
死神だけじゃなく、
本人の声で録音されたものも聴けます。
図書室に出入りしていれば、
分かるはずなんですけどね」
向井が言うと、
「私は聴いてますよ。
あの有名な歌姫の霊魂歌が聴けるのは、
このライブラリーだけですから。
素晴らしいです」
壁に寄りかかって、
画面を見ていた佐久間が、
満足げにほほ笑んだ。
「えっ?
じゃあ、くるみ君の舞台も観れるの? 」
セイが向井の方に詰め寄ってきた。
「セイくん。近いです」
「あっ、ごめんなさい」
セイが慌てて離れる。
「くるみ君ヴァージョンも、
ティンくんヴァージョンも、
両方楽しめますよ。
今までトレーニングルームで練習していた、
くるみ君の姿も記録されているので、
再生されたあともセイくんが観たければ、
観れます」
「凄い……僕、仕事頑張っちゃう」
セイは目を輝かせながら、
大画面の方へ歩いて行った。
各々が自分の思いを巡らせながら、
画面を見ていると、
「ほお、ティンは洒落てるね~
私が作った死神だけあるね」
冥王が向井の横に立って自慢げに言った。
「自意識過剰ですね」
向井が前を向いたまま言う。
「私は冥王だからね」
そういってフッと笑うと、
「やっとここまで来たという感じだね」
賑やかな休憩室を眺めながら話をつづけた。
「昔はここも、
薄暗くてどんよりしていて、
こんな活気は見られなかったな。
まあ、
死人の集まりで活気というのもなんだがね」
冥王は遠くを見る目をしながら微笑んだ。
「俺は今しか知らないので、
よくわかりませんけど」
「前冥王は良くも悪くも官僚的で……
だから私は、
全ての体制を見直したかったんですよ」
「冥王はここに来る前は、
別のところにいたんですよね」
「……まあね」
「家族はいるんですか? 」
「……それはヒ・ミ・ツ」
冥王は茶目っ気たっぷりに笑った。
「私もここにきて二百年。
君らからすれば長い時間だろうが、
私からすればたったの二百年だ。
その間に多くの苦しむ魂を見てきた。
それを何も考えずに、
処分したり再生させたり、
そんな仕事をさせられていれば、
死神達だって心は荒むだろ? 」
冥王は真顔のまま話をつづけた。
「戦争は嫌だね。
あの頃のここは、
君らが想像もできないほどに酷かったよ。
死神ですら精神が病んで、
みんな消えていった……」
いつになく深刻な表情の冥王を、
向井は初めて見た気がした。
「トリアは私より長くこの国を見てきた。
あの中で唯一残った死神だ。
だから精神面は何より強い。
今いる死神は、
この体制ができてから、
私が核を与えたものだから、
八十…九十年程か……
だが消滅しているものが多いから、
一番古いのがシェデムになるな。
この国は災害も多いから、
みんながびのびと働いてくれている姿は、
私にとっては救いだよ」
辛そうな目の奥は何を思っているのか、
向井には読み取ることはできなかった。
だが、
彼の二百年が、
想像に絶する時間であったのは確かだ。
もしかしたら冥王が、
新たな死神に核を与えたくないのも、
彼らが苦しむ姿を、
できれば見たくないからかもしれない。
「君とは長い付き合いになるからね。
特例も少ないし延長してもらいたいな」
「御冗談を」
向井の言葉に冥王が笑った。
「まあいい。時間はたっぷりある。
それに特別室の住人の扱いも上手いし」
「それは仕事柄、
ああいったことには慣れて……」
そこまで言って向井は言葉を止めた。
頭の奥で何かが浮かんで消えた。
あれ? なんか……今…思い出し……
「どうした? 」
向井が下を向いて動かなくなった姿に、
冥王が声をかけた。
「あっ、いえ、何でもありません」
冥王は少し様子を窺うように見ていたが、
それ以上何も話しそうもない向井に、
言葉をつづけた。
制作発表が始まるというので、
大画面の前にみんなが集まっていた。
「ティンだ。かっこいいね~。
俳優さんの中でも断トツでイケてるよ」
田所がカフェラテを飲みながら言った。
「中身はくるみ君ですけどね」
セイが不満そうに言う。
「まあまあ。
でもシェデムさんがティン君御指名で、
雑誌のインタビューを受けたらしいし、
あの容姿だから人気は出るよね」
向井がなだめる様に話した。
「あのさ~
このまま人気がでても大丈夫なの? 」
ソファーに座っていた早紀が、
後方に立っている向井を、
のけぞるような体制で見た。
「問題はないですよ。
この仕事が終われば、
記憶をはじめとして、
痕跡はすべて消えて無くなるからね」
「えっ、そうなの? 」
牧野が一驚する。
「そうですよ。
ただ冥界図書には、
特殊保管庫があるので、
過去の出演作は見られますよ。
今までにも、
歌手や声優などの案件はありましたからね」
「歌手って歌声は死神でしょ? 」
早紀が聞く。
「そうですね。
でも、死神は能力値が高いんですよ。
しかも特殊保管庫にあるものは、
死神だけじゃなく、
本人の声で録音されたものも聴けます。
図書室に出入りしていれば、
分かるはずなんですけどね」
向井が言うと、
「私は聴いてますよ。
あの有名な歌姫の霊魂歌が聴けるのは、
このライブラリーだけですから。
素晴らしいです」
壁に寄りかかって、
画面を見ていた佐久間が、
満足げにほほ笑んだ。
「えっ?
じゃあ、くるみ君の舞台も観れるの? 」
セイが向井の方に詰め寄ってきた。
「セイくん。近いです」
「あっ、ごめんなさい」
セイが慌てて離れる。
「くるみ君ヴァージョンも、
ティンくんヴァージョンも、
両方楽しめますよ。
今までトレーニングルームで練習していた、
くるみ君の姿も記録されているので、
再生されたあともセイくんが観たければ、
観れます」
「凄い……僕、仕事頑張っちゃう」
セイは目を輝かせながら、
大画面の方へ歩いて行った。
各々が自分の思いを巡らせながら、
画面を見ていると、
「ほお、ティンは洒落てるね~
私が作った死神だけあるね」
冥王が向井の横に立って自慢げに言った。
「自意識過剰ですね」
向井が前を向いたまま言う。
「私は冥王だからね」
そういってフッと笑うと、
「やっとここまで来たという感じだね」
賑やかな休憩室を眺めながら話をつづけた。
「昔はここも、
薄暗くてどんよりしていて、
こんな活気は見られなかったな。
まあ、
死人の集まりで活気というのもなんだがね」
冥王は遠くを見る目をしながら微笑んだ。
「俺は今しか知らないので、
よくわかりませんけど」
「前冥王は良くも悪くも官僚的で……
だから私は、
全ての体制を見直したかったんですよ」
「冥王はここに来る前は、
別のところにいたんですよね」
「……まあね」
「家族はいるんですか? 」
「……それはヒ・ミ・ツ」
冥王は茶目っ気たっぷりに笑った。
「私もここにきて二百年。
君らからすれば長い時間だろうが、
私からすればたったの二百年だ。
その間に多くの苦しむ魂を見てきた。
それを何も考えずに、
処分したり再生させたり、
そんな仕事をさせられていれば、
死神達だって心は荒むだろ? 」
冥王は真顔のまま話をつづけた。
「戦争は嫌だね。
あの頃のここは、
君らが想像もできないほどに酷かったよ。
死神ですら精神が病んで、
みんな消えていった……」
いつになく深刻な表情の冥王を、
向井は初めて見た気がした。
「トリアは私より長くこの国を見てきた。
あの中で唯一残った死神だ。
だから精神面は何より強い。
今いる死神は、
この体制ができてから、
私が核を与えたものだから、
八十…九十年程か……
だが消滅しているものが多いから、
一番古いのがシェデムになるな。
この国は災害も多いから、
みんながびのびと働いてくれている姿は、
私にとっては救いだよ」
辛そうな目の奥は何を思っているのか、
向井には読み取ることはできなかった。
だが、
彼の二百年が、
想像に絶する時間であったのは確かだ。
もしかしたら冥王が、
新たな死神に核を与えたくないのも、
彼らが苦しむ姿を、
できれば見たくないからかもしれない。
「君とは長い付き合いになるからね。
特例も少ないし延長してもらいたいな」
「御冗談を」
向井の言葉に冥王が笑った。
「まあいい。時間はたっぷりある。
それに特別室の住人の扱いも上手いし」
「それは仕事柄、
ああいったことには慣れて……」
そこまで言って向井は言葉を止めた。
頭の奥で何かが浮かんで消えた。
あれ? なんか……今…思い出し……
「どうした? 」
向井が下を向いて動かなくなった姿に、
冥王が声をかけた。
「あっ、いえ、何でもありません」
冥王は少し様子を窺うように見ていたが、
それ以上何も話しそうもない向井に、
言葉をつづけた。
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