第44話 幽霊 元秀
文字数 1,138文字
「そういえば、俺がここに来た時、
死んでるのに死にたいって、
騒いだのを覚えてる? 」
元秀が思い出すように話し出した。
彼はテロの爆破で、
体が吹っ飛ばされていて、
簡単な処置はされていたものの、
海外からここへ運ばれるまで、
時間もあり、
冥界に来た時の魂は、
もがき苦しんでいた。
「最初に君を見た時に、
消去してから、
焼却がいいんじゃないかって、
俺達も悩んだんですよね」
一年前の出来事を、
向井は思い返して言った。
病気や事故などの霊は、
痛みに喘いでいるので
冥界に運ばれてくると、
一旦医務室に入り、
魂再生治療を受けることになっていた。
「だけど……」
元秀がその時を思い出すように話し始めた。
「治療を受けたら、
嘘みたいに体の痛みが取れて、
俺もちょっと欲が出てきたんだよね。
痛みの記憶も消えてたし、
描き残したいものがあるって話したら、
派遣登録できるって言われてさ。
あの時は驚いたなぁ~」
元秀が向井を見て笑顔になった。
元々無口な彼が、
こんなことを話すのも、
来世に進む準備が、
整い始めているからかもしれない。
「俺だって元は人間ですからね。
死んだ後に、
こんな仕事させられるなんて、
思ってもみませんでしたよ」
「そういえばそうか。アハハハハ」
元秀は声を立てて笑った。
「俺が生まれ変わって、
次に死んだ後にここに来るだろ。
その時に自分の作品を見て、
どんなふうに感じるんだろう。
死後にこんな世界があるのを知ったら、
多分死に対する考え方も、
違ってくるんだろうな」
「そうですね」
向井も自分の死を改めて考えていた。
俺の再生は六十五年後だが…………
どんな世の中に移り変わっているのか。
特別室とかかわっているので、
物恐ろしさの方が今は強い。
それでもいつかは、
再生の道へと進むことになる。
冥界でさえ、
天国でも地獄でもないとすれば、
この世界は何とつながっているのだろう。
下界で繰り広げられている、
多くの出来事が無価値に思えてくる。
向井がそんな考えに耽っていると、
先程まで騒いでいた霊の声が、
パタッと聞こえなくなった。
なんだ?
廊下を見ると、
「ギャアギャアうるせえんだよ!! 」
不機嫌な牧野が蹴り上げたようで、
霊の方が痛みで失神したらしい。
オクトも呆然として見ていた。
「牧野君、やりすぎですよ」
「でも、静かになっただろ?
うるさくて眠れねえよ」
牧野は文句を言いながら、
休憩室に入っていった。
「疲れてるなら自室に戻ればいいのに」
早紀もそういいながら、
サロンを出て休憩室に向かった。
特例はそれぞれ部屋を与えられているが、
休憩室にいることが多い。
趣味に没頭したい時は自室にいるが、
それ以外は本を読んだり、
物を作ったりと、
休憩室は特例や死神の、
憩いの場になっていた。
仮眠なら休憩室の方が賑やかなのに、
何故か子守唄のようで、
落ち着くのが不思議だ。
死んでるのに死にたいって、
騒いだのを覚えてる? 」
元秀が思い出すように話し出した。
彼はテロの爆破で、
体が吹っ飛ばされていて、
簡単な処置はされていたものの、
海外からここへ運ばれるまで、
時間もあり、
冥界に来た時の魂は、
もがき苦しんでいた。
「最初に君を見た時に、
消去してから、
焼却がいいんじゃないかって、
俺達も悩んだんですよね」
一年前の出来事を、
向井は思い返して言った。
病気や事故などの霊は、
痛みに喘いでいるので
冥界に運ばれてくると、
一旦医務室に入り、
魂再生治療を受けることになっていた。
「だけど……」
元秀がその時を思い出すように話し始めた。
「治療を受けたら、
嘘みたいに体の痛みが取れて、
俺もちょっと欲が出てきたんだよね。
痛みの記憶も消えてたし、
描き残したいものがあるって話したら、
派遣登録できるって言われてさ。
あの時は驚いたなぁ~」
元秀が向井を見て笑顔になった。
元々無口な彼が、
こんなことを話すのも、
来世に進む準備が、
整い始めているからかもしれない。
「俺だって元は人間ですからね。
死んだ後に、
こんな仕事させられるなんて、
思ってもみませんでしたよ」
「そういえばそうか。アハハハハ」
元秀は声を立てて笑った。
「俺が生まれ変わって、
次に死んだ後にここに来るだろ。
その時に自分の作品を見て、
どんなふうに感じるんだろう。
死後にこんな世界があるのを知ったら、
多分死に対する考え方も、
違ってくるんだろうな」
「そうですね」
向井も自分の死を改めて考えていた。
俺の再生は六十五年後だが…………
どんな世の中に移り変わっているのか。
特別室とかかわっているので、
物恐ろしさの方が今は強い。
それでもいつかは、
再生の道へと進むことになる。
冥界でさえ、
天国でも地獄でもないとすれば、
この世界は何とつながっているのだろう。
下界で繰り広げられている、
多くの出来事が無価値に思えてくる。
向井がそんな考えに耽っていると、
先程まで騒いでいた霊の声が、
パタッと聞こえなくなった。
なんだ?
廊下を見ると、
「ギャアギャアうるせえんだよ!! 」
不機嫌な牧野が蹴り上げたようで、
霊の方が痛みで失神したらしい。
オクトも呆然として見ていた。
「牧野君、やりすぎですよ」
「でも、静かになっただろ?
うるさくて眠れねえよ」
牧野は文句を言いながら、
休憩室に入っていった。
「疲れてるなら自室に戻ればいいのに」
早紀もそういいながら、
サロンを出て休憩室に向かった。
特例はそれぞれ部屋を与えられているが、
休憩室にいることが多い。
趣味に没頭したい時は自室にいるが、
それ以外は本を読んだり、
物を作ったりと、
休憩室は特例や死神の、
憩いの場になっていた。
仮眠なら休憩室の方が賑やかなのに、
何故か子守唄のようで、
落ち着くのが不思議だ。
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