第19話  賽の河原の子供霊

文字数 1,194文字

「えっと、お名前言えるかな? 」

残った子供に向き直るとしゃがみこみ、
向井が聞いた。

「歩夢です」

「チカコ」

「圭太」

「じゃあ、
三人でお手々を繋いでください。
そして歩夢君がおじさんとお手々を繋ぐと、
電車みたいだね~」

「電車ごっこ? 」

圭太の目が輝くのを見て、
先程の安達を思い出した向井は、
精神年齢は、
この子たちと変わらないなと笑った。

「電車好き? 」

「好き!! 」

圭太と歩夢が同時に言った。

「そうか~チカコちゃんは何が好き? 」

「あたしはダイヤモンド」

えっ? 宝石? 

今どきの子供はこんなに小さくても、
宝石が好きなのか。

「あのね~
ダイヤモンドは水の魔法が使えるの」

「魔法? 」

「そう。このドレス見て~
あたしはダイヤモンドの王女様なの」

ああ~そういうことか。

子供の変身ものアニメね。

そういえばこの子がきているドレスは、
きっとご両親が棺に入れたものだろう。

こんなに愛されている子もいれば、
身勝手に消されてしまう命もある。

この仕事に携わるようになってから、
人間でいた時より、
命の尊さを感じているのかもしれない。


「おじちゃん? 」

歩夢が向井を見上げた。

「あっ、ごめんね。これから一緒に、
お姉さんのところに行くからね」

消去課には田所の他に、
弥生という二十三歳の女性がいる。

図書館で働いていた彼女は、
門を出たところでバイクにはねられ死亡。

残りの人生は十六年で、
既に三年経過しているので、
あと十三年。

かなり短命の人生になる。

ただ、特例不足と言われているので、
もしかしたら、
弥生はしばらく残るかもしれない。

同じに若く死亡しても、
人生時間があるものは冥界と言えど、
それなりに人生は送れるが、

弥生にはそれがない。

新しい人生を送りたいなら、
すぐに再生するのが一番だが。


「ママはいる? 」

圭太の言葉に、
考え事をしていた向井はハッと我に返った。

「ここは特別なところだから、
ママはまだ来られないんだ」

向井がそういうと、
チカコが顔を上げた。

「あたし、死んじゃったんだよね」

その言葉にドキッとした。

「僕も死んでるの? 」

圭太が不思議そうに向井を見上げると、
チカコが言った。

「だって川にパパとママが映ってたもん。
元気? お腹空いてない? 
って聞くの。
そしたら鬼のおじちゃんが、
返事をしてごらんって。
だから元気だよって言ったら、
ママがご免ねって泣くの」

「僕のパパも、
サッカーの約束守れなくてごめんって」

歩夢もそういうと、

「だから僕も死んじゃってごめんって。
でも、
お友達と一緒だから大丈夫って言ったら、
鬼のおじちゃんが、
もう舟に乗ってもいいよって」

「そうか。君たちは強い子だね」

向井はこの子たちの来世には、
もっと幸せな光が降り注ぎますようにと、
願わずにいられなかった。

「これから行くところには、
優しいお姉さんがいて、
その人が君たちを、
ちゃんと見てくれるからね」

向井は子供たちの体を、
ぎゅっと抱きしめると、
手を取って消去課へ向かった。
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