第45話 優香登場
文字数 1,796文字
廊下の騒ぎがおさまるのと同時に、
工房から妖鬼と花村が、
何やら楽しそうに話しながら出てきた。
「じゃあ、
下絵が出来たら作業を始めるから」
「俺の腕も役立ちそうで嬉しいよ」
妖鬼が手を振り去っていくと、
花村がサロンに戻ってきた。
「随分楽しそうだったけど、
工房はどうでした? 」
向井が花村に声をかけた。
「妖鬼君のおかげで、
私の思う通りの作業場になって、
助かったよ。
彼、
宮大工としての腕も立派だよね。
関所にある深彫りの装飾は、
妖鬼君の作品なんだってね」
花村が驚いたように話した。
「ああ、そういえば、
図書室にある和室の透かし深彫りも、
妖鬼さんが仕上げたって言ってました」
花村が納得するように頷いた。
「さっき工房に冥王が来てね。
私と妖鬼君に、
自分の思いをたっぷり話されて、
おかげで冥王が描くイメージも分かったよ」
「全く、あの人は…………
冥王のものは後回しだって、
言ったんですけどね」
「いやいや、
それが彼の話を聞いたら、
私も妖鬼君も楽しくなっちゃってね。
メインは龍で衝立がいいそうだよ」
そういって一枚の紙を見せてくれた。
「酷い絵ですね。
これ冥王が描かれたんですか? 」
「まあ、子供の落書きのようだけど、
細かいところにチェックが入っていて、
設計図みたいでしょ。
どんな思いでこれを描いていたんだろう、
と考えたら、
妖鬼君と笑っちゃってね」
「確かに」
二人は冥王が机に向かって、
真剣にお絵描きしている姿を思い浮かべて、
笑いが止まらなくなった。
「冥王は面白い方だよね」
「そうですね。
ある意味素直なんで、
扱いやすいとも言えますけどね」
「酷いなぁ~」
「あははは。
でも閻魔様のイメージが違うのは、
事実でしょ? 」
「うんうん」
花村も楽しそうに頷くと、
「この作品は仕上げ彫りまで、
時間がかかりそうだから、
すぐにでも始めないと」
と言いながら、
部屋の奥に消えていった。
さて、俺も仕事をするか。
「と、その前に…
マッサージチェアーでほぐしていこう」
向井は肩をもみながら、
トレーニングルームに向かった。
二ヵ月後―――
工房がおおよそでき上ってきたところで、
花村や元秀が、
自分の作業スペースに移っていき、
まり子はサロンの方がはかどると言って、
妖鬼に特注でテーブルを作ってもらい、
そこで作業をしていた。
そんな霊達が活動的になっている時、
セイがサロン担当の死神カトルセと一緒に、
大画面をもってサロンに入ってきた。
「これ何? 」
コックコートを着た女性が、
食堂から走ってやってきた。
元パティシエの優香は再生を待つ間、
食堂で創作デザートを作っていた。
「うまくできたらレシピを残すから、
ここのコックに作ってもらって、
メニューに入れてよ」
優香は国内の洋菓子コンクールで優勝。
海外でも、
技術部門で優勝するほどの腕の持ち主だ。
派遣登録はしなかったものの、
冥界で新しいデザートを残してから、
再生すると言ってレシピを考えていた。
牧野や安達はスイーツ男子なので、
喜んで協力しているようだ。
「くるみ君の記者会見があるんですよ~
『ザ・ダンス』の制作発表が~
で、このサロンでも見れるようにと、
モニターの設置をしようという事になって」
「へえ~ サロンの霊達も、
TVが見られるようになるんだ。
いいね~」
くるみの合格が決まってからのセイは、
皆にくるみの凄さを話して回りながら、
サロンにも大画面をと室長に言って、
許可を取っていた。
舞台中継も放映されるそうで、
セイが一番、
はしゃいでいるのかもしれなかった。
「あっ、向井さん、
新しいデザート出来たから、
いつでもいいから食堂に来て~」
優香が手を振りながら、
小走りでやってきた。
向井は工房を出てきたところで、
足を止めた。
「牧野君たちが食べてるんじゃないの? 」
優香は腕組みをして、
背の高い向井を見上げた。
「試食は、
向井さんや新田さんの方が的確だから。
牧野君たちは、
何でもおいしいって言うんだもん」
「あははは。
でも優香ちゃんのデザートは、
どれも美味しいから、
冥王も喜んでますよ」
「そっか。まいったなぁ~
私が再生するまでに、
ここでしか食べられない新作、
作りたいんだよね~
私は霊魂だから、
食べても味覚がいまいちなんだよね。
味の決め手は、
向井さんたちにかかってるんだからね」
「それはプレッシャーだなぁ。
心して試食しないといけないね」
「じゃあ、食べに来てよ。
あっ、佐久間さ~ん」
優香は手を振って駆けだしていった。
「元気だなぁ~」
向井は笑いながら見ていた。
工房から妖鬼と花村が、
何やら楽しそうに話しながら出てきた。
「じゃあ、
下絵が出来たら作業を始めるから」
「俺の腕も役立ちそうで嬉しいよ」
妖鬼が手を振り去っていくと、
花村がサロンに戻ってきた。
「随分楽しそうだったけど、
工房はどうでした? 」
向井が花村に声をかけた。
「妖鬼君のおかげで、
私の思う通りの作業場になって、
助かったよ。
彼、
宮大工としての腕も立派だよね。
関所にある深彫りの装飾は、
妖鬼君の作品なんだってね」
花村が驚いたように話した。
「ああ、そういえば、
図書室にある和室の透かし深彫りも、
妖鬼さんが仕上げたって言ってました」
花村が納得するように頷いた。
「さっき工房に冥王が来てね。
私と妖鬼君に、
自分の思いをたっぷり話されて、
おかげで冥王が描くイメージも分かったよ」
「全く、あの人は…………
冥王のものは後回しだって、
言ったんですけどね」
「いやいや、
それが彼の話を聞いたら、
私も妖鬼君も楽しくなっちゃってね。
メインは龍で衝立がいいそうだよ」
そういって一枚の紙を見せてくれた。
「酷い絵ですね。
これ冥王が描かれたんですか? 」
「まあ、子供の落書きのようだけど、
細かいところにチェックが入っていて、
設計図みたいでしょ。
どんな思いでこれを描いていたんだろう、
と考えたら、
妖鬼君と笑っちゃってね」
「確かに」
二人は冥王が机に向かって、
真剣にお絵描きしている姿を思い浮かべて、
笑いが止まらなくなった。
「冥王は面白い方だよね」
「そうですね。
ある意味素直なんで、
扱いやすいとも言えますけどね」
「酷いなぁ~」
「あははは。
でも閻魔様のイメージが違うのは、
事実でしょ? 」
「うんうん」
花村も楽しそうに頷くと、
「この作品は仕上げ彫りまで、
時間がかかりそうだから、
すぐにでも始めないと」
と言いながら、
部屋の奥に消えていった。
さて、俺も仕事をするか。
「と、その前に…
マッサージチェアーでほぐしていこう」
向井は肩をもみながら、
トレーニングルームに向かった。
二ヵ月後―――
工房がおおよそでき上ってきたところで、
花村や元秀が、
自分の作業スペースに移っていき、
まり子はサロンの方がはかどると言って、
妖鬼に特注でテーブルを作ってもらい、
そこで作業をしていた。
そんな霊達が活動的になっている時、
セイがサロン担当の死神カトルセと一緒に、
大画面をもってサロンに入ってきた。
「これ何? 」
コックコートを着た女性が、
食堂から走ってやってきた。
元パティシエの優香は再生を待つ間、
食堂で創作デザートを作っていた。
「うまくできたらレシピを残すから、
ここのコックに作ってもらって、
メニューに入れてよ」
優香は国内の洋菓子コンクールで優勝。
海外でも、
技術部門で優勝するほどの腕の持ち主だ。
派遣登録はしなかったものの、
冥界で新しいデザートを残してから、
再生すると言ってレシピを考えていた。
牧野や安達はスイーツ男子なので、
喜んで協力しているようだ。
「くるみ君の記者会見があるんですよ~
『ザ・ダンス』の制作発表が~
で、このサロンでも見れるようにと、
モニターの設置をしようという事になって」
「へえ~ サロンの霊達も、
TVが見られるようになるんだ。
いいね~」
くるみの合格が決まってからのセイは、
皆にくるみの凄さを話して回りながら、
サロンにも大画面をと室長に言って、
許可を取っていた。
舞台中継も放映されるそうで、
セイが一番、
はしゃいでいるのかもしれなかった。
「あっ、向井さん、
新しいデザート出来たから、
いつでもいいから食堂に来て~」
優香が手を振りながら、
小走りでやってきた。
向井は工房を出てきたところで、
足を止めた。
「牧野君たちが食べてるんじゃないの? 」
優香は腕組みをして、
背の高い向井を見上げた。
「試食は、
向井さんや新田さんの方が的確だから。
牧野君たちは、
何でもおいしいって言うんだもん」
「あははは。
でも優香ちゃんのデザートは、
どれも美味しいから、
冥王も喜んでますよ」
「そっか。まいったなぁ~
私が再生するまでに、
ここでしか食べられない新作、
作りたいんだよね~
私は霊魂だから、
食べても味覚がいまいちなんだよね。
味の決め手は、
向井さんたちにかかってるんだからね」
「それはプレッシャーだなぁ。
心して試食しないといけないね」
「じゃあ、食べに来てよ。
あっ、佐久間さ~ん」
優香は手を振って駆けだしていった。
「元気だなぁ~」
向井は笑いながら見ていた。
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