第41話 宝石バイヤー 緑川

文字数 1,682文字

工房を出て死神課の前を通ると、
セイが早紀から配達物を受け取っていた。

「これは霊魂じゃなくて宝石ね。
高価な石ばかりだから、
扱いに気をつけてよ」

セイは受け取るとその箱をもって、
保管庫へ向かうところだった。

貴重なものは、
セキュリティーのかかった保管庫に入る。

盗まれる心配はないが、
使用後戻さないものが多く、
物の紛失事件がよく起こるからだ。

そのたびに、
冥界総出で失せ物探しが始まる為、
通常の保管庫には、
【使用したら元の場所へ戻すこと】
との注意書きが貼られていた。


「セイくん。それ、宝石? 」

「向井さん」

「なに? 
向井君は宝石を待ってたの? 」

早紀が聞くので、

「まり子さんが欲しがってたものなら、
ちょっと拝見しようと思って」

「まり子……あぁ、あのデザイナーのね。
花村といい感じなんだって? 」

早紀が両手を口に当てて、
ムフフと笑った。

「それ、どこ情報? 」

「もう、みんな知ってるわよ~
冥王と河村がこそこそ話してるのを、
トリア達が聞いたって言ってたもん」

「みんな、口が軽いなぁ~」

「向井さんは、
宝石を確認したいんですか? 」

セイが箱をもって近づいてきた。

「まり子さん御所望の、
ロードクロサイトならそうです」

「海外から来てるからそうかな」

セイが箱のマークを見て言った。

冥界のマークは国によって違うので、
それで区別されていた。

「そういえば、
緑川さんが何やら動いてたから、
これがそうかもしれませんね」

「そうなの? 
助かったぁ~お礼言わなきゃ」

「緑川さんはなんで、
まだサロンにいるの? 」

「さぁ? もしかしたら、
まり子さんのせいかもしれないですね。
無茶ぶりが凄くて、
手に入らない石も欲しがるでしょう。
そのたびに緑川さんにお願いするから」


緑川は宝石商の間では超有名人の、
宝石バイヤーだった。

バイクのスリップ事故で、
亡くなったのだが、
宝石のある所には緑川、
と言われるくらい、
亡くなった後でさえ、
冥界での無理難題に、
答えられるほどの人物だ。

どんな手を使っているのか、
冥王でさえ瞠目していた。

冥界図書室には、
緑川が冥界で集めた超希少石や、
クオリティスケールも新たに作られ、
本も合わせて人気の書物になっている。

本人も石集めのゲームを、
楽しんでいるようだった。


「だったら、
まり子さんにも見てもらいましょう」

セイはそういうとサロンに向かった。

「そんなに凄い宝石なら私も見たい~」

早紀は揉み手をするように両手を握ると、
ウキウキしながら付いてきた。

「まり子さんいますか? 」

サロンに行くとまり子が振り返った。

「はい? 
花村さんなら工房の方に行きましたよ」

「いえいえ、まり子さんに用があって」

向井はそういうと、
セイが持っている箱を指さした。

「さっき配達されてきた石なんですけど、
まり子さんが、
欲しがっていたものかもしれないので、
一緒に見ようと思って」

「えっ? 本当? 」

まり子も目を輝かせて、
いそいそとやってきた。

セイは近くのテーブルに箱を置くと、
蓋を開けた。

中からは、
いくつかのルースケースが出てきた。

「あっ!! これ」

まり子が興奮して、
一つのケースを手に持った。

「これよ。これ。綺麗でしょう? 」

まり子の上ずった声に、
早紀もケースをのぞく。

「ちっさ~」

「もう、
早紀ちゃんは宝石に興味がないの? 」

セイは中に入っていた明細を見て、
驚愕の表情を見せた。

「向井さん、これ……」

「ん? ケタ間違ってないよね。7桁!? 」

「こんなに小さいのに? 」

早紀も仰天の声を上げた。

「スイートホーム鉱山は貴重なのよ。
私が欲しかった色が、
緑川さんからも難しいと言われてて、
ちょっとあきらめてたのよ。
北海道産も欲しかったんだけど……
見つかってよかった。
本当に綺麗だわ」

まり子はうっとりした顔で見つめた。

「これを中心にして……
ああ~
アイデアが湧きすぎてどうしよう」

「まり子さん、
これ一度、
経理部に回さないといけないので、
そのあとにお渡ししますから、
一旦お預かりしますね」

そういってセイが、
ルースケースを取り上げた。

「ええ~」

まり子が悲鳴に近い声を上げる。

向井もあまりの金額に言葉も出ないまま、
セイがサロンを出て行くのを見送った。
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