第34話 冥界の風景

文字数 1,056文字

「冥界って天気がないから、
時間の動きがないっていうか、
死人の集まりだから、
流れが停止してるでしょう。
でも、その写真。
加納さんから見ると、
冥界にも時間の流れや、
人の動きがあるんだって、
僕らもビックリしたんです」

「確かに……
俺達には見えてても感じ取れない、
冥界の時間の流れが分かる、
いい写真ですね」

「でしょう。だから冥王が、
この写真はギャラリーが出来たら、
絶対に飾るって」

人も自然も、
見ることができないはずなのに、
窓の外には、
こんな美しさが広がっていたんだ。

何もないと思っていた景観が、
魂の光が蛍のように舞い、
少し見る視点を変えるだけで、
暗闇も光も感じ取れる。

加納さんの写真が素晴らしいのは、
この感受性から、
生み出されるからなのだと、
向井は本を見て思った。

「それでもう一つお願いがあるんですけど」

向井は写真集を閉じると言った。

「いいですよ。
サインをもらってくれたお礼に、
超特急で仕上げます。
で? なんですか? 」

「まずはくるみ君に、
マネージャーを付けたいので、
死神を借りたいんですけど」

「マネージャーですか。
一応、
クリエイターズファントムの新人として、
提出したんですよね。
いるにはいるんですけど、
今は彼女だけかな? 」

セイがタブレットを見せた。

二十代前半くらいの若い女性だ。

「ティンくんと変わらないくらいの年に、
見えるんだけど、
彼女はこの仕事に慣れてる? 」

「顔は幼く見えますけど、
死神歴四十年のベテランですよ。
最近まで北方面の調査に出てて、
やっと中央に戻ってきたんです」

「そうなんですね。それなら大丈夫かな」

「大丈夫ですよ。
なにはなくとも死神ですから」

「抑々、死神が少なくなっている理由を、
聞いてもいい? 」

「あぁ、それはですね。
岸本さんが今朝早くに、
死神連れて行っちゃったんですよ。
除去のヘルプが足りなくて」

そういう事か。

牧野の除去には、
特例がヘルプで入っているから、
特例を回すこともできない。

「このところ悪霊の数が増えてて、
新田さんを除去課に移動して、
田所さんを再生課にと、
言っていたんですけど、
冥王が新田君には危険すぎるかなって。
ほら禿げ問題があったでしょ。
だから死神も増やしたくないし、
数だけが減っているわけです」

牧野君が聞いたら怒るな。

向井はうつむいて苦笑いした。

「そういう事なら仕方がないですね。
じゃあ、書類審査が通ったら、
彼女……名前は何だっけ」

「シェデムです」

「ではシェデムさんに、
くるみ君のマネージャーをお願いしますね」

「はい。分かりました」

セイはそういうと、
シェデムに貸し出しチェックを入れた。
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