第9話 仕事待ちの幽霊

文字数 1,464文字

翌日―――

向井はスパイスラテを飲みながら、
商店街を歩いていた。

霊魂の数もまばらになっている。

昨夜のうちに、
安達がかなり補導してくれたようだ。

素直じゃない彼らしいお礼の仕方だ。

残っている霊は、
何か強い思いがあるのだろう。

向井は仕事派遣希望の登録霊を、
見つけることにした。

いたらナンバープレート渡して……
それ以外の霊は、
サロンに連れて行って……と、
タブレットを見ながら考えこんだ。


浮遊霊の殆どは光の渦が広がると、
それに吸い込まれるように、
冥界へと導かれていく。

ただし、
家族への思いが強すぎるものや、
ストーカーなどの問題霊は、
拒絶反応が強い為、
保護課が強制的に連れて行き、
通常とそれ以外の霊で選別され、
残ったものが派遣希望として、
調査対象にされていた。


さてどうしたものか………
登録ナンバーだけでも二百はある。

自分一人で片づけられる数ではない。

タブレットを手に頭を抱える向井を、
少し離れた所から見ていた女が、
声をかけてきた。


「ねえ、お兄さん、新顔だよね。
その前のおっさんはどうしたの? 」

その声に振り向くと、
フリースペースのカフェテラスでくつろぐ、
五十歳前後の女性が手を振る姿が見えた。

「おっさん、くたばった? 」

口が悪いな。

向井はテーブルに近づくと言った。

「高田さんは二年前に、
任務終了で再生しましたよ」

「へえ~じゃあ、今はあんたが担当? 」

「そうです。ここ座ってもいいですか? 」

「どうぞどうぞ」

「向井です」

そういうと椅子に腰かけた。

「お兄さん男前だね。背高いし、若いよね」

「若くないですよ。三十ですから。
生きていれば三十二ですよ」

「まあ、あたしから見たら若者ですよ。
えっ、でも…じゃあ、あたし二年以上も、
おっさんに会ってなかったって事? 」

彼女はそういうと、
改めて驚いた様子で言った。

死ぬと時間の感覚も曖昧になる。

「いつもこの辺にいるんですか? 
会うの初めてですけど」

「まあ、あちこち移動してるからな~」

派遣霊も一つ所にとどまらないので、
こういう事もままある。

「あなたも派遣登録されてますよね」

「してますよ。
お兄さんが二年目という事は、
最後に仕事をしたのは三年前かなぁ~
まだもう少しやりたいんだけど、
仕事依頼が来ないのよ。
向井さんだっけ? 
あんたサボってんじゃないの? 」

「あなたいつから、
登録されているんですか? 」

「あたし? 結構古いよ。
番号も三番だし。
永久欠番? 凄いよね~
野球知らない? 」

「知ってますよ」

そういうと向井はタブレットを確認した。

見ると一桁は三番のみ残っている。

本名は川野佐知。派遣名山川葵。

漫画家アシスタント。

派遣回数も十回? 

大ベテランだな。

いったいいつになったら満足するんだ? 

「あたし、
どうしてもしたい仕事があるのよね。
十二単とか、
中世ヨーロッパの建造物とか、
そういうのを描きたいんだけどさ」

「仕事を選びすぎなんじゃないですか? 」

「あのね~
あたしをサポートするのが、
あんたの仕事でしょ。
それができなきゃ、成仏しないからね」

「はいはい、分かりましたよ。
とりあえずあまり移動せずに、
この辺りにいてくださいね。
サロンでもいいですけど」

派遣プレートを持っている霊は、
冥界とつながっているので、
悪霊にやられることは少ない。

が、絶対安全とも言えないので出来れば、
サロンにいてくれると助かるのだが、
こういう霊に遭遇することもなくはない。

「あんなところ退屈だよ。
あたし旅行好きなんだもん。
でも、全国まわるのも飽きたし、
当分この辺りで遊んでるから、
ちゃんと探してよ」

文句を言う葵をあきれ顔で見ると、
向井は席を立った。
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