第11話 霊電集め

文字数 1,635文字

冥界の電力は霊で補われている。

悪霊などの除去される霊は、
冥界札に包まれ燃え上がり消えていく。

が、それは完全消滅ではなく、
その先は冥界に送られ、
環境課が電力として、
処理することになっていた。

悪霊、サイコパス、地縛霊などは、
かなり強い力を放つため、
ただ消滅させるだけでは、
無駄という事になり、
エコロジーの観点から。
環境課が発足された。

冥界の電力は悪霊あってこそなのだ。


「昔は薄暗くても、
誰も文句は言わなかったそうですけど、
今はうるさくてかないません。
冥王室と休憩室には、
多く霊電通してるんで、
当然足りなくなりますよね。
サロンからも電気がチカチカして、
気が滅入るって苦情がきていて。
他にも私達の休憩室の大画面。
何台も設置されて、
あんなもの撤去すればいいのに…」

「それはダメ!! 」

「えっ!? 」

向井と佐久間が揃って安達を見た。

「あ……いや、あの…」

安達が口籠ると、

「そいつ、アニメオタクなのよ」

牧野が息を切らして戻ってきた。

そうだった。

安達と初めて会った時も、
TVを占領する安達と牧野が、
揉めていたっけ。

そんな事もあって、
モニターの数が増えたのを、
向井は思い出した。

「安達は好きなアニメがあるんだよな。
俺も野球見たいし、
田所さんと早紀も、
毎週楽しみにしてるドラマがあるからね」

「通信料も払ってないのにですか? 」

佐久間が言うと、

「悪霊から身を守ってやってるんだから、
これくらい当然だろ。
これで四十。
あと、六十除去すりゃいいんだよな」

「とりあえずノルマは達成できますね。
悪霊玉の効果も、
百体確保できれば消えますから、
気合を入れて頑張ってください」


悪霊玉ね……

道理でこの裏通りに、
霊が集中しているはずだ。

悪霊玉は除去課では、
別名悪霊ホイホイと言われている。

悪霊を引き寄せる小さな水晶だ。

中には磁力のようなものが入っており、
もっているものに、
悪霊や地縛霊が引き寄せられてくる。

一ヵ所に集めて結界を張るので、
この場所だけ時間が止まっているのだ。

冥界のものには結界は効かないので、
向井と安達は、
普通に入り込んだというわけだ。


佐久間は肩で息をする牧野に、

「倉田さんは一日で千体やっつけて、
冥王から感謝状もらってましたよ」

「ばっ…かやろう…北方面は、
ここより土地が広いんだよ。
しかも、
倉田は合気道の師範で変な技使うんだよ」

「だったら牧野君も、
ご教授をお願いされたらどうですか? 」

「うるせえ! ほら、安達も少し手伝え。
これは俺達の楽園を守る戦いだぞ」

「………」

安達がちらりと向井を見た。

「いいですよ。
ただし、
派遣の手伝いも忘れないでくださいね」

「よし。今度はこっちだ」

牧野は佐久間から、
残りの冥界札を受け取ると、
安達を連れて別の路地に姿を消した。


佐久間は今年配属されてやってきた。

駅前で人違いで殺されている。

意見の食い違いから逆上した女性が、

恋人を駅まで追ってきて、
たまたま、
同じような服装に背格好だった佐久間を、
後ろから刺したという。

佐久間が言うには突然の出来事で、
燃えるような感覚しか覚えていないらしい。

気が付いたら、
三途の川に立っていたのだとか。

人生時間はあと五十六年。

三十五歳で亡くなっているので、
向井とも冥界で長く過ごすことになる。


「佐久間さんは、
お目付け役というわけですか」

「まあね。牧野君はこっちに来ると、
よくさぼるからね。
重要な仕事には、
監視が付けられてしまうんだよ」

「若いから、
仕方がないかもしれませんけどね」

「まあ、多少は大目に見ても、
こっちも苦情が続くと、
縄を付けてでも頑張ってもらわないと」

「ハハハ、大変だ」

「向井さんも頑張ってくださいよ。
サロンが溢れかえってるので」

「それに関しては返す言葉もございません」

向井が頭を下げると、
佐久間が笑った。

「そんなこと思ってもいないでしょう」

「いやいや、悪いと思ってますよ。
今日もこれから仕事ですから」

「だったら、
若い二人の監視は私がしますから、
行ってかまいませんよ」

「では、お言葉に甘えて」

向井は佐久間に任せてその場を去った。
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