第3話 悪霊退治にも申請書?
文字数 1,366文字
「俺はきっと妖怪と悪霊に殺されるんだ」
「大丈夫だよ。
俺たちはもう死人だから、
悪霊にも妖怪にも殺されません」
向井が牧野をなだめるように、
肩をポンと叩いたところで、
「おっとまずいな。
事故の霊で付近の地縛霊が集まり始めた」
向井は牧野の背後を見て言った。
「えっ? 」
牧野は振り返ると、
黒く膨れ上がる霊の塊に慌てて、
冥界札を取り出した。
その横で向井が助け舟を出す。
両手で円を大きく描くと、
空間の動きを止めた。
その場の街の時間が停止する。
牧野は襲い来る黒い影を避けながら、
冥界札に息を吹きかけ次々と投げつけた。
札に取り込まれた悪霊は、
一瞬で燃え上がり消滅されていく。
「ふう~」
空気が澄んでいく様子を見ながら、
牧野がため息をついた。
付近の悪霊が消えたのを確かめ、
向井は両手を叩き空間を元に戻すと、
街が動き出した。
悪霊・地縛・妖怪関係は、
基本除去課の担当だが、
特例の数が少ないので、
別の課がヘルプに入ることが多い為、
嫌でも何でもできるようになる。
「今夜はこれで終了~
札が無くなった~」
冥界札は除去課のスタッフのみ、
死神課から配布される。
「これって面倒なんだよな。
書類書いて申請出してからじゃないと、
もらえないんだもん」
「えっ? そうなの? 」
田所が聞いた。
「札と鬼籍は繋がってて、
札が消えると霊も消滅されるから、
鬼籍の名前も消滅されるわけ。
だから一体で一札?
しかもその数で給料が決まる歩合制よ。
田所さんたちは固定給だからいいけどさ。
俺たちは下界にいる時間も長いから、
お金は必要なわけ。
なのに経費は下りないしさ」
牧野は銜えていた菓子パンを口に放り込んだ。
「特例って、今十二人しかいないじゃん。
こんだけ悪霊だらけなのにさ、
除去課のスタッフは俺を入れてたった三人。
しかも残りの二人は、北と西。
これってブラックよ」
それでも除去課は、
最大スタッフ数になっている。
田所の消去課も、
スタッフがもう一人いるだけ。
これも配達課から受け取った霊魂を、
消去する事務仕事なので、
スタッフが少なくても何とかなっている。
なのに、派遣課に至っては向井のみ。
派遣霊が増えているのに、
中央から動けないのは、
ここに理由がある。
心残りの強い霊魂は、
向井の霊的波動に引き寄せられて、
自分から移動してくるものもいる。
反対に順番待ちでサロンにいる間に、
再生への道を選ぶものもいる。
霊魂もそれぞれである。
「そういや、
焼却課は二人で焼いてるんだよね。
あそこはシニアの部署だから、
源じいと真紀子さんだっけ? 」
田所が聞いた。
源太郎さんは八十六歳で亡くなったのだが、
残りの寿命が十年あるので、
焼却課にいる。
真紀子さんも五十八歳で死亡したが、
残り寿命が二十年ある。
「源じいは今が楽しいんだってさ。
死んだ後の体は痛みも取ってもらえるし、
食事もうまいって。いいよなぁ」
「老人に悪霊に向かって走れって言えるか?
言えないだろ? 適材適所」
田所が言った。
「それにしても、牧野君はさすがですよ。
あの素早さ。俺には無理です」
向井の言葉に、
「そ、そうかなぁ~」
牧野が照れたように言う。
「さあ、仕事が終わったんなら酒飲もう」
田所が両手を上げて伸びをした。
「あのふらついてる霊魂はどうするんだよ」
「今ので危険な悪霊は大方いなくなったし、
明日でいいでしょう。
働きすぎは体に毒」
向井は牧野の肩をたたいて、
飲み屋に向かった。
「大丈夫だよ。
俺たちはもう死人だから、
悪霊にも妖怪にも殺されません」
向井が牧野をなだめるように、
肩をポンと叩いたところで、
「おっとまずいな。
事故の霊で付近の地縛霊が集まり始めた」
向井は牧野の背後を見て言った。
「えっ? 」
牧野は振り返ると、
黒く膨れ上がる霊の塊に慌てて、
冥界札を取り出した。
その横で向井が助け舟を出す。
両手で円を大きく描くと、
空間の動きを止めた。
その場の街の時間が停止する。
牧野は襲い来る黒い影を避けながら、
冥界札に息を吹きかけ次々と投げつけた。
札に取り込まれた悪霊は、
一瞬で燃え上がり消滅されていく。
「ふう~」
空気が澄んでいく様子を見ながら、
牧野がため息をついた。
付近の悪霊が消えたのを確かめ、
向井は両手を叩き空間を元に戻すと、
街が動き出した。
悪霊・地縛・妖怪関係は、
基本除去課の担当だが、
特例の数が少ないので、
別の課がヘルプに入ることが多い為、
嫌でも何でもできるようになる。
「今夜はこれで終了~
札が無くなった~」
冥界札は除去課のスタッフのみ、
死神課から配布される。
「これって面倒なんだよな。
書類書いて申請出してからじゃないと、
もらえないんだもん」
「えっ? そうなの? 」
田所が聞いた。
「札と鬼籍は繋がってて、
札が消えると霊も消滅されるから、
鬼籍の名前も消滅されるわけ。
だから一体で一札?
しかもその数で給料が決まる歩合制よ。
田所さんたちは固定給だからいいけどさ。
俺たちは下界にいる時間も長いから、
お金は必要なわけ。
なのに経費は下りないしさ」
牧野は銜えていた菓子パンを口に放り込んだ。
「特例って、今十二人しかいないじゃん。
こんだけ悪霊だらけなのにさ、
除去課のスタッフは俺を入れてたった三人。
しかも残りの二人は、北と西。
これってブラックよ」
それでも除去課は、
最大スタッフ数になっている。
田所の消去課も、
スタッフがもう一人いるだけ。
これも配達課から受け取った霊魂を、
消去する事務仕事なので、
スタッフが少なくても何とかなっている。
なのに、派遣課に至っては向井のみ。
派遣霊が増えているのに、
中央から動けないのは、
ここに理由がある。
心残りの強い霊魂は、
向井の霊的波動に引き寄せられて、
自分から移動してくるものもいる。
反対に順番待ちでサロンにいる間に、
再生への道を選ぶものもいる。
霊魂もそれぞれである。
「そういや、
焼却課は二人で焼いてるんだよね。
あそこはシニアの部署だから、
源じいと真紀子さんだっけ? 」
田所が聞いた。
源太郎さんは八十六歳で亡くなったのだが、
残りの寿命が十年あるので、
焼却課にいる。
真紀子さんも五十八歳で死亡したが、
残り寿命が二十年ある。
「源じいは今が楽しいんだってさ。
死んだ後の体は痛みも取ってもらえるし、
食事もうまいって。いいよなぁ」
「老人に悪霊に向かって走れって言えるか?
言えないだろ? 適材適所」
田所が言った。
「それにしても、牧野君はさすがですよ。
あの素早さ。俺には無理です」
向井の言葉に、
「そ、そうかなぁ~」
牧野が照れたように言う。
「さあ、仕事が終わったんなら酒飲もう」
田所が両手を上げて伸びをした。
「あのふらついてる霊魂はどうするんだよ」
「今ので危険な悪霊は大方いなくなったし、
明日でいいでしょう。
働きすぎは体に毒」
向井は牧野の肩をたたいて、
飲み屋に向かった。
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