第102話 特例 高田との別れ

文字数 1,156文字

「実は下界に、
黒谷という男性がいるんですが、
彼はちょっと、
普通と違う霊感の持ち主なので、
気に留める程度に覚えておいてください」

「霊感があるというのは、
姿を消しても、
俺達が見えるという事ですか? 」

「ん~そういうことかな。
消去が不十分で、
生まれ変わっていたので、
何度か消去を繰り返してみたんだけど、
彼は特殊でね。
消去しきれないので、
冥王にも報告はしてあるんですけど、
別段問題もないので、
監視対象としています。
多分私が再生されたと知ったら、
君に接触してくると思うから、
普通に相手をしていれば大丈夫です」

「どんな人ですか? 」

「国の移民対策でリストラになって、
仕事にあふれて、
その日暮らしをしている、
元自動車整備士です。
今三十二歳って言ったかな。
短期バイトで、
築年数の古い団地に住んでいます。
ネットでも稼いでいるから、
何とか生活できている感じですね。
物にこだわらない面白い子ですよ」

「面白い子って、三十二歳ですよね」

「あはははは。子じゃないよね~
私はアラカンの六十二歳……
あっ、でもこの仕事も十五年だから、
生きていたら七十七歳。喜寿ですよ。
時間はあっという間ですね。
まあ、だから三十代なんて、
私からしたら、
まだまだひよっこって事ですかね」

高田が声を出して笑った。

「私はね。
多分、次が最後の再生だと思うんです」

「えっ? 」

向井が驚いて聞き返すと、

「魂というのにも寿命があってね。
古くなると再生できないので、
処分されるんです」

高田の話に言葉がでなかった。

「驚きますよね。
なので、冥王にも、
このままここにいてもいいと、
言われたんですけど、
この魂が生きられる最後のチャンスなら、
成仏して生まれ変わろうかなと、
思ったんです」

高田は優しく笑った。

彼の話す姿を見て、
向井は初対面なのに寂しさを感じた。

「あなたと仕事がしたかったです」

向井の言葉に、

「有難う」

高田は笑顔で言うと、
今抱えている案件の説明を始めた。

その後、
二人は応接室を出ると、

「お世話になりました」

「高田君も長い事ご苦労様でした」

冥王は相手を労うようにいい、
高田は部屋を後にした。

「さて、
向井君には特別室の説明をするので、
そこに座ってください。
それともう一人の特例、
安達君についても、
君にだけ少し補足します」

冥王はそれだけ言うと、
静かに話し出した。


それから一ヶ月半。

講義と訓練を終え、
新たに四人の特例が誕生した。

三ヶ月もすると、
向井達もここでの生活、
リズムに慣れてきた。

向井が休憩室に行くと、
牧野がソファーに寝転がっていた。

「あれ? 仕事は? 」

「ん? 今戻ってきたんだよ。
何かまだ体に違和感があってさ。
霊魂の時と、
人間の時の使い分けって言うの?
それが上手くできなくて。
向井は平気? 」

「俺はそれほど辛くはないけど……」

向井がそういったところで、
新田が部屋に入ってきた。
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