第52話 ヒップホップ挑戦中

文字数 1,085文字

「向井さん。田之倉悠斗さん、
無事消去課に進みましたよ。
ご苦労様でした。
ここにサインをお願いします」

「はい」

向井はサインをした後、
周囲を見回してから、

「あれ? 今日はセイくんいないの?
除去の仕事は? 」

目の前にいるエナトに聞いた。
彼は除去の腕前が群を抜いているため、
除去課では取り合いになる死神の一人だ。

「牧野君が佐久間さんに、
引きずられて行ったから、
本日のノルマは大丈夫じゃないかな~」

エナトは楽しそうに言った。

「セイはね~
あとでトレーニングルームを、
覗いてみてください
面白いものが見れますよ」

「? 」

向井は小首をかしげると、
ニヤニヤするエナトと別れ、
トレーニングルームに向かった。

中に入ると……

なるほど~

奥でティンに、
ヒップホップのレッスンを受ける、
セイの姿があった。

頑張ってはいるものの……

う~~~~ん…?

向井は腕を組んで入り口で眺めていた。

すると、

「向井さん」

エルフが小走りでやってきた。

「セイですか? 」

「うん、
今エナトさんに言われて見に来たんだけど、
セイくんは、
ヒップホップを訓練中なんですか? 」

「くるみ君が再生されてから、
急に自分も踊りたいって言いだして、
ティンの空いた時間に、
レッスンを受けてるんですよ。
ただね~」

エルフも苦笑して腕を組む。

「リズム感が皆無なんだよね。
なんたって、
ボックスも踏めなかったからね」

「ほぉ~それは大変でしたね」

「でしょう? 
一応ダンスらしくなってきたんで、
冥王が発表会でもしたらどうかって」

エルフが笑った。

「発表会か……
確かに歌とか手品とか好きなものもいるし、
冗談抜きで面白いかもしれませんよ」

向井が腕組みしながら見つめる姿に、

「そうか。それいいですね~
自由参加で募集かけてみるか。
この前の冥界婚から、
イベントごとを増やしてほしいと、
ご意見箱に来てたんですよ」

エルフは考え込むような表情で、
何やらアイデアが浮かんだのか、
向井にじゃあと手を上げて、
その場を離れた。

そのあと暫く、
セイの奮闘する姿を見ていたが、

「俺も疲れたし、ちょっと仮眠をとろう」

と向井も休憩室に向かった。


工房の前を通り過ぎようとして、
ふと中をのぞくと、
冥王と安達が、
真剣に何かを製作している姿が見えた。

安達は冥王といることが多い。

なにをしているんだ? 

向井は気になり室内に入った。

「二人して何を作っているんですか? 」

冥王と安達が同時に顔を上げた。

「ミニチュアですよ」

見ると冥王は机を、
安達はソファーを作っていた。

「僕がここで制作しているのを見て、
お二人が自分も作りたいって言うので、
お教えしてるんです」

向井達が話していると、
奥から三十代の男性霊がやってきた。
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