第14話 妖怪 虎獅狼

文字数 1,546文字

向井は再びアーケードに戻ると、
カフェのあたりを見回した。

すると妖怪相手に、
何やら楽しそうな葵の姿があった。

見ると送り犬のようだ。

山道でもないのに何でこんなところに?  

向井はそう思いながら近づくと、
妖怪はちらりと向井を見てから、
去っていった。

「おっ、向井さんじゃない」

「妖怪相手に何してるんですか。
下手にかまうと、
再生する前に取り込まれますよ」

「あたしを誰だと思ってんのよ。
送り犬ごときにやられるわけないでしょ」

幽霊も年季が入ると簡単にはいかないな。

まあ、悪霊にならないだけいいか。

「そうだ。仕事を見つけてきましたよ」

「えっ? どんな? 」

「時代は大正ロマンだそうです」

「ええ~あたしが言ったのと違うじゃない。
十二単が描きたかったのに」

「袴だって同じようなもんでしょ。
街並みだって、
レンガとか出てくるんじゃないですか。
まぁどんな話か分からないんで、
何とも言えませんけど」

「なによそれ」

葵はふくれっ面になった。

「それより今回の派遣先は、
山川さんが過去二回、
お仕事されている作家さんなんですけど」

「二回……あぁ、松田雪江だ!! 」

思い出すように言った。

「そう、その方です。
で、死神はいつも、
誰にお願いされているんですか?
こっちで空いている死神に、
お願いしてもいいですけど 」

「死神は三号のトリアに頼んでた。
ほら、あたしも三番じゃん。
あの子可愛いんだよね。
私の若い頃にそっくり? 」

「…………」

「何よその顔。
あんたあたしの若い頃知らないでしょ」

「それはそうですけど」

「まあいいわ。久しぶりのお絵かきだ~」

葵は嬉しそうに走り出した。

「あまり遠くに行かないでくださいよ。
全く……」

向井がトリアを呼び出していると、
背後に先程の妖怪の気配を感じた。

「俺を転ばせて何か企てても無駄ですよ」

「ふん! 承知しているわ。
冥王にこき使われている人間が、
気になっただけだ」

「そうですか。
で、
君はここで何をしているんですか? 」

「この辺りも昔は自然が多かったものよ。
俺の祖が狼だったのを知らんのか? 
お前らのせいで、
妖怪も住む場所を奪われ、
気が付いたら犬の姿よ。
送り狼から送り犬……
まぁ、送りイタチよりはマシだがな」

「人間に恨みがあるんですか? 」

「恨み? そんなものはない。
時は刻むもの。
恨むほど、
お前らと近しいわけでもないしな。
人間を使わなければならないほどに、
冥界も人員不足なんだと知って、
仲間内では笑い話になっているぞ」

「噂話になるほど俺達は人気者ですか」

「そうだな」

妖怪は面白そうに笑った。

「君はあそこにいたものと、
いつからの知り合い? 」

向井は、
葵が座っていた場所に視線をやり聞いた。

「ああ、葵か。
あれとはどこだったかなぁ~
思い出せん……が、
一緒にあちこち回って楽しかったぞ」

向井が渋い顔をしたのを見て、

「名前くらい。葵も俺の名前を知っている」

向井が驚く表情をした。

「だったら俺にも、
その名前を教えてくれませんか? 
噂になっているくらいだ。
俺の名前も知っているんでしょう? 」

「ふふふ」

狼を少し、
小さくしたような姿かたちの妖怪は、
細身でスタイルもいい。

落ち着いた態度から年齢も高いのだろう。

「まあいい。
ただし教えたところで、
使役に使おうなぞ考えても無駄だぞ。
俺の名は虎獅狼だ」

「また随分と人間くさい名ですね」

「何を言うか。そもそもお前らが、
俺達の名を使っているんだぞ。
お前らの言葉でいうパクリだ。
パ・ク・リ」

葵と虎獅狼が共に行動をしていた。

いったいどこでどんな悪さをしていたのか。

向井がじっと虎獅狼を見下ろしていると、

「なぁに、心配はいらんさ。
ちょいと人間どもを驚かせていただけよ」

「ずいぶん俗世に、
馴染んでいるじゃないですか」

「まぁな」

虎獅狼が笑うと、
突然目の前に、
小柄な二十代半ばと思われる女性が現れた。
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