第88話 三途の川の騒ぎ

文字数 1,175文字

「新たな霊は何体なんですか? 」

「二体……いや一体かな? 
一体は条件聞いて、
そんなことまでして、
冥界にいるつもりはないと、
再生を希望したから」

カトルセが思い出すように話をした。

「みんながそうやって、
再生の道へ進んでくれると、
助かるんですけどね」

冥王が言ったところで、
ディセットゥがやってきた。

彼は冥界人の間では、
ディッセと呼ばれている、
経理部の死神だ。

高身長のスポーツマンタイプだが、
本人曰く、
運動はまるでダメと笑っていた。

「そんなこと言ってると、
金が入ってこないですよ」

ディッセが言った。

「お金? 」

向井が聞き返すと、

「昔は六文銭も本物だったけど、
今や紙。
年間三億は入るはずなのに、
貨幣損傷等取締法って何さ。
だから特別室に来る輩の隠し財産は、
冥界では貴重な資金源なんだよ」

向井が首をかしげるのを見て、
冥王が説明した。

「彼にはね、
投資をお願いしてるんですよ。
短期投資での彼の腕前には、
驚くべきものがありますからね」

「まぁこっちは冥界なので、
株式投資も裏から色々とね。
死神ならではのやり方があるんだよ。
向井さん達の給料にも、
関係してくるので、
隠し財産は大事なんです」

ディッセが悪だくみでも話すように笑った。

「おかげで冥界サミットでも、
うちの金がものを言ってるでしょう? 」

ディッセが冥王の顔を見た。

「まあ、
こっちの顔色を窺っている所はありますね。
でもね、駆け引きというのは、
バラまきすれば気分はいいでしょうけど、
軽視されるので策略としては、
何も生み出さないわけですよ」

「それでもないよりあったほうが、
いいでしょう」

「そりゃ何をするにも、
お金は必要ですからね」

そんな話をしていると、
ドセが慌てた様子でやってきた。

「向井さん、
特別室から呼び出しがきてます」

「分かった。今行きます」

向井がその場を離れようとすると、

「向井君」

冥王が声をかけた。

「もし彼らが何かを言ったとしても、
放っておいてください。
そして道川と灰田の二人には、
地獄路の門まで案内をお願いします」

地獄路は特別室の住人の最後の場所だ。

門までという事は、
その手前にある審判室で、
冥王からの裁きを受けることになる。

向井は冥王の表情を見ながら、

「下界での災害に何か関係があるんでしょうか」

「彼らのこれまでの行動を考えると、
凶行に及ぶ可能性があるからね」

冥王がそういったところでトリアが来た。

「カトルセいた~
隔離サロンで問題発生だって」

「やばいやばい」

カトルセが慌てて駆け出して行った。

「全く……
冥王も禿げるなんて気にしないで、
死神少し増やしてよ」

トリアがそれだけ言って去ろうとすると、

「ちょうどよかったです。
君にも話しておきたいことがあるので、
ディッセと一緒に私の部屋へ来てください」

冥王はそれだけ話すと歩き出した。

「面倒くさいなぁ~」

トリアはそういいながらも、
ディッセと一緒に執務室へとついて行った。
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