第93話 被害者たち
文字数 1,302文字
「彼らの事ですか? 」
下を向いていた冥王が顔を上げた。
「彼らは事件には無関係ですが、
全く関係がないとも言えません。
そのことで被害者にもなっています。
安達君は車に乗せられた時、
まだ生存していました。
あの出来事が安達君の殺害に、
関係していると知ったら、
きっと彼らは自分を責めるでしょう」
「だったら何故、
安達君を特例にしたんですか? 」
「安達君の魂は、
特例メンバーと一緒にいる時が、
一番安定してるんです。
君達も感じていると思いますが、
リングで抑えていても、
安達君の魂は暴走しやすい。
出来るだけ落ち着いた状態で、
生活させたいんです」
「あれは焼却処分の魂ですよ。
どうしても焼却したくないなら、
他の生贄の魂と同じく、
眠らせておけばいいのに……」
ディッセの疑問に、
冥王とトリアは顔を見合わせ、
共に小さくため息をついた。
「何ですか? 」
ディッセが眉間にしわを寄せた。
「要するに冥王の自己満足なの」
トリアが怒ったように冥王を見た。
「何もそこまで言わなくても……」
「だってそうでしょう? いい? 」
トリアは驚くディッセに、
体の向きを変えて説明した。
「冥王はね。自分のミスで、
人間として生まれる機会を奪ったことに、
自責の念を感じてるの。
自分が辛いから楽になりたいんだよね。
特例の調査員が可哀想だ」
トリアは両腕を組むと、冥王を睨んだ。
「はあ、なるほど」
ディッセもあきれ顔で笑った。
「じゃあ、特例を増やさない理由も、
意味があるんだ。
赤ランプがつくのに、
冥王が念入りに調べて消してますよね」
「そうそう。
安達君の魂はちょっと特別だから、
相性のいい魂の特例を選んでるの。
この二年で特例になったのって、
安達君を抜いたら五人だよ。
その前と比べたら雲泥の差だもん。
特例が知ったら怒るよ~」
「それは……そうですね……」
ディッセも考えるしぐさをして、
冥王の顔を見た。
「二人していじめないでください」
「まあ、でも、
そのおかげというわけじゃないですけど、
人数が少ない分、
意思疎通はしやすいんじゃないか? 」
「ああ………
確かに情報は共有しやすいかな。
前は大所帯だったからね」
トリアも納得するように言い頷いた。
「ほら、結果よければすべてよしって。
私の思い付きも悪くはないでしょ」
冥王はそういうと、
「私達もある神の思い付きで、
ここに送り込まれている。
だからと言って、
意思がないわけじゃない。
ヴィヴィと同じですよ。
私は今、
ここを手放すわけにはいきません。
維持するためにも闘って、抗って、
神への謀反を起こしている、
最中なんです!! 」
冥王は胸を張って言った。
「偉そうに言ってますけど、
結局冥界 も人間界と同じで、
冥王は創造神と下界の神に挟まれた、
中間管理職ってことですよね」
ディッセが笑い、トリアが噴き出し、
冥王は渋い顔をした。
――――――――
向井は特別室を出たあと、
地獄路の門で冥王を待った。
執務室を出た冥王は、
門の前に立つ向井を見て、
「君も審判室に来ますか? 」
と尋ねた。
向井はこれまで、
冥界の深層部に触れることは避けていた。
だがこの先何十年も、
冥界にいることを考え決意した。
「今回は私も同席させていただきます」
向井が頭を下げると、
冥王とともに門をくぐった。
下を向いていた冥王が顔を上げた。
「彼らは事件には無関係ですが、
全く関係がないとも言えません。
そのことで被害者にもなっています。
安達君は車に乗せられた時、
まだ生存していました。
あの出来事が安達君の殺害に、
関係していると知ったら、
きっと彼らは自分を責めるでしょう」
「だったら何故、
安達君を特例にしたんですか? 」
「安達君の魂は、
特例メンバーと一緒にいる時が、
一番安定してるんです。
君達も感じていると思いますが、
リングで抑えていても、
安達君の魂は暴走しやすい。
出来るだけ落ち着いた状態で、
生活させたいんです」
「あれは焼却処分の魂ですよ。
どうしても焼却したくないなら、
他の生贄の魂と同じく、
眠らせておけばいいのに……」
ディッセの疑問に、
冥王とトリアは顔を見合わせ、
共に小さくため息をついた。
「何ですか? 」
ディッセが眉間にしわを寄せた。
「要するに冥王の自己満足なの」
トリアが怒ったように冥王を見た。
「何もそこまで言わなくても……」
「だってそうでしょう? いい? 」
トリアは驚くディッセに、
体の向きを変えて説明した。
「冥王はね。自分のミスで、
人間として生まれる機会を奪ったことに、
自責の念を感じてるの。
自分が辛いから楽になりたいんだよね。
特例の調査員が可哀想だ」
トリアは両腕を組むと、冥王を睨んだ。
「はあ、なるほど」
ディッセもあきれ顔で笑った。
「じゃあ、特例を増やさない理由も、
意味があるんだ。
赤ランプがつくのに、
冥王が念入りに調べて消してますよね」
「そうそう。
安達君の魂はちょっと特別だから、
相性のいい魂の特例を選んでるの。
この二年で特例になったのって、
安達君を抜いたら五人だよ。
その前と比べたら雲泥の差だもん。
特例が知ったら怒るよ~」
「それは……そうですね……」
ディッセも考えるしぐさをして、
冥王の顔を見た。
「二人していじめないでください」
「まあ、でも、
そのおかげというわけじゃないですけど、
人数が少ない分、
意思疎通はしやすいんじゃないか? 」
「ああ………
確かに情報は共有しやすいかな。
前は大所帯だったからね」
トリアも納得するように言い頷いた。
「ほら、結果よければすべてよしって。
私の思い付きも悪くはないでしょ」
冥王はそういうと、
「私達もある神の思い付きで、
ここに送り込まれている。
だからと言って、
意思がないわけじゃない。
ヴィヴィと同じですよ。
私は今、
ここを手放すわけにはいきません。
維持するためにも闘って、抗って、
神への謀反を起こしている、
最中なんです!! 」
冥王は胸を張って言った。
「偉そうに言ってますけど、
結局
冥王は創造神と下界の神に挟まれた、
中間管理職ってことですよね」
ディッセが笑い、トリアが噴き出し、
冥王は渋い顔をした。
――――――――
向井は特別室を出たあと、
地獄路の門で冥王を待った。
執務室を出た冥王は、
門の前に立つ向井を見て、
「君も審判室に来ますか? 」
と尋ねた。
向井はこれまで、
冥界の深層部に触れることは避けていた。
だがこの先何十年も、
冥界にいることを考え決意した。
「今回は私も同席させていただきます」
向井が頭を下げると、
冥王とともに門をくぐった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)