第50話 新たな冥界へ
文字数 1,448文字
数日前――――
「ギャラリーを見るのに、
これを付けなきゃダメなのか? 」
いつものアーケードにいた、
虎獅狼を見つけると、
向井はブレスを見せて説明した。
「入る時に装着しないと通行禁止です。
ブレスを付けたら、
関所から直結の通路を通って、
ギャラリーに入れます。
冥界を出る時には、
ブレスは外されるので、
大丈夫ですよ」
「なるほど。
問題のある妖怪封じ策という事か」
「そうです。悪さをしたら、
その時点で消滅させられるので、
気をつけてくださいね」
「仕方ない。
それくらいは譲歩しないとな」
虎獅狼は向井を見上げた。
「千乃にも説明してくださいね」
「分かった。そうだ。
最近、葵に会えんので、
あの漫画の続きが読めん。
ギャラリーに漫画も置いといてくれ」
「虎獅狼もファンですか? 」
「面白いぞ。
異世界に入る時にゾンビが紛れ込んでな。
それが異世界では、
ゾンビ効果が薄れるという現象が起きて、
その続きなんだよ。気になるだろ? 」
「分かりました」
向井は夢中になって話す虎獅狼に笑うと、
冥界に戻っていった。
――――――――
ギャラリーは、
結婚式に参加した者たちには、
一足早く公開されたので、
みな賑々しく楽しんでいた。
向井はそんな冥界人が、
いなくなるのを待ってから、
部屋に入った。
おかげでゆっくり鑑賞できる。
このテキスタイルアートは、
染色作家が冥界の色をイメージして、
何度も染めては追究してきたものだ。
冥王が気に入って、
少し染色に失敗した生地をもらって、
それを自分でタペストリーに作り直して、
部屋に飾っていた。
冥王のそんなアイデアは、
作家たちの間でも噂になっており、
工房では人気者だ。
向井は作品一つ一つと、
作家との思い出を巡らせながら、
ある写真の前でピタリと足を止めた。
加納が撮った冥界と、
もう一枚驚く写真が飾られていた。
彼が言っていたのは、
このことだったのか……
いつの間に撮影したのか、
特例たちの休憩している姿が、
そこにあった。
無防備な姿で笑っている、
楽しそうな写真だ。
自分がこんなにリラックスした姿で、
ソファーに寄りかかっていたのにも、
ビックリだ。
向井はその写真に思わず笑ってしまった。
ここがくつろげる空間になっているのが、
感じ取れる。
これもきっと冥王のおかげなんだろう。
加納も結婚式後すぐに、
再生されていったので、
写真のお礼を言いそびれてしまった。
霊が減ることはないので、
また新たな数がサロンに集まってくる。
元秀は冥王の掛け軸が完成したら、
次は自分の作品を仕上げたい、
と張り切っていた。
山川は相変わらず、
松田のアシスタントを継続中。
くるみの舞台も始まり、
そろそろ千秋楽。
本人からも、
来世に進みたいとの申し出があった。
誰もが想いを残さず再生されれば、
魂の消去もスムーズにいく。
自分たちのしていることが、
次世代につながっているのだと感じると、
第二の死人人生も無意味ではないと思える。
向井がそんなことを考えていると、
けたたましくアラームが鳴った。
「○○町で殺傷事件発生。
除去課は出動中。
手の空いているものは、
現場へ移動してください」
「悪霊が膨れ上がっているらしい」
佐久間がやってくると、
霊銃を向井に放り投げた。
「開発室から渡されました。
プロトタイプなので、
試験的に試して欲しいそうです」
「へぇ~
以前のより小ぶりで軽いですね」
向井はグローブタイプの霊銃を装着すると、
「今夜ももうひと踏ん張り頑張りますか」
と、肩のコリをほぐしながら、
佐久間と一緒に下界に向かった。
人の幸せは生きる死人の上にある。
そのことを知る者は誰もいない。
この先もずっと………
「ギャラリーを見るのに、
これを付けなきゃダメなのか? 」
いつものアーケードにいた、
虎獅狼を見つけると、
向井はブレスを見せて説明した。
「入る時に装着しないと通行禁止です。
ブレスを付けたら、
関所から直結の通路を通って、
ギャラリーに入れます。
冥界を出る時には、
ブレスは外されるので、
大丈夫ですよ」
「なるほど。
問題のある妖怪封じ策という事か」
「そうです。悪さをしたら、
その時点で消滅させられるので、
気をつけてくださいね」
「仕方ない。
それくらいは譲歩しないとな」
虎獅狼は向井を見上げた。
「千乃にも説明してくださいね」
「分かった。そうだ。
最近、葵に会えんので、
あの漫画の続きが読めん。
ギャラリーに漫画も置いといてくれ」
「虎獅狼もファンですか? 」
「面白いぞ。
異世界に入る時にゾンビが紛れ込んでな。
それが異世界では、
ゾンビ効果が薄れるという現象が起きて、
その続きなんだよ。気になるだろ? 」
「分かりました」
向井は夢中になって話す虎獅狼に笑うと、
冥界に戻っていった。
――――――――
ギャラリーは、
結婚式に参加した者たちには、
一足早く公開されたので、
みな賑々しく楽しんでいた。
向井はそんな冥界人が、
いなくなるのを待ってから、
部屋に入った。
おかげでゆっくり鑑賞できる。
このテキスタイルアートは、
染色作家が冥界の色をイメージして、
何度も染めては追究してきたものだ。
冥王が気に入って、
少し染色に失敗した生地をもらって、
それを自分でタペストリーに作り直して、
部屋に飾っていた。
冥王のそんなアイデアは、
作家たちの間でも噂になっており、
工房では人気者だ。
向井は作品一つ一つと、
作家との思い出を巡らせながら、
ある写真の前でピタリと足を止めた。
加納が撮った冥界と、
もう一枚驚く写真が飾られていた。
彼が言っていたのは、
このことだったのか……
いつの間に撮影したのか、
特例たちの休憩している姿が、
そこにあった。
無防備な姿で笑っている、
楽しそうな写真だ。
自分がこんなにリラックスした姿で、
ソファーに寄りかかっていたのにも、
ビックリだ。
向井はその写真に思わず笑ってしまった。
ここがくつろげる空間になっているのが、
感じ取れる。
これもきっと冥王のおかげなんだろう。
加納も結婚式後すぐに、
再生されていったので、
写真のお礼を言いそびれてしまった。
霊が減ることはないので、
また新たな数がサロンに集まってくる。
元秀は冥王の掛け軸が完成したら、
次は自分の作品を仕上げたい、
と張り切っていた。
山川は相変わらず、
松田のアシスタントを継続中。
くるみの舞台も始まり、
そろそろ千秋楽。
本人からも、
来世に進みたいとの申し出があった。
誰もが想いを残さず再生されれば、
魂の消去もスムーズにいく。
自分たちのしていることが、
次世代につながっているのだと感じると、
第二の死人人生も無意味ではないと思える。
向井がそんなことを考えていると、
けたたましくアラームが鳴った。
「○○町で殺傷事件発生。
除去課は出動中。
手の空いているものは、
現場へ移動してください」
「悪霊が膨れ上がっているらしい」
佐久間がやってくると、
霊銃を向井に放り投げた。
「開発室から渡されました。
プロトタイプなので、
試験的に試して欲しいそうです」
「へぇ~
以前のより小ぶりで軽いですね」
向井はグローブタイプの霊銃を装着すると、
「今夜ももうひと踏ん張り頑張りますか」
と、肩のコリをほぐしながら、
佐久間と一緒に下界に向かった。
人の幸せは生きる死人の上にある。
そのことを知る者は誰もいない。
この先もずっと………
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