第115話 地主神の務め

文字数 1,119文字

「そういう人間の為にも、
親しみやすい神でいるのも、
地主神の務めだと思いますが」

「ふん。今回も、
第五候補の中には、
この国のトップの名もあった。
大沢が自分の息子を贄にしたなら、
そいつが自ら贄になったのなら、
私も考えてやらんこともなかったが、
今度という今度は我慢ならん。
いくら贄をよこそうと、
こんなものでは長い結界は無理だな。
私も助けはしない。
ないの神も今回は、
助けはしないだろう。
お前にはそのことを言いに、
わざわざ来てやった」

地震の神であるないの神は、
大災害の際の儀式に、
怒りを感じながらも、
冥王の頼みもあり、
災害を収めた経緯がある。

「それはすいませんでした」

「……せっかく来てやったのに、
セーズもティンもおらん」

「赤姫のお気に入りですからね」

冥王が苦笑した。

「私はいい男の生気をすうと力が湧くんだ」

「おかげで赤姫を担当させた死神は、
短命ですよ」

「所詮死神だろう」

「所詮ではありませんよ。
私にとっては可愛い子です。
トリアは、
あなたに生気を取られても元気なので、
彼女を担当させましょう」

「あの生意気な女は嫌じゃ」

「でも、
赤姫は生き生きされてますよ。
トリアの力が、
あなたの中に取り込まれて、
若返ってます」

「そ、そんな世辞をいっても、
結界の事は変わらんぞ」

「分かってますよ。
いずれ儀式は、
中止させようと思っていますから、
そうしたら残りの結界が、
崩されないよう、
冥界でチェックさせていただきます。
あなた以外の地域神は、
自分で選べない贄は、
邪魔でしかないそうですから、
人間には期待しないと言っていました。
ただし、あなたと同じで、
お祭りのお供えがあれば、
それが一番嬉しいそうです」

「欲のない。
だから下界の神は馬鹿にされるんだ」

「誰もバカになどしていません。
少なくとも冥界(うち)のものは、
あなたに敬意を払っていると思いますよ」

その言葉に赤姫はふと先程の事を思い返し、
冥王を見た。

「そういえば……
さっき私をババア呼ばわりしたガキがいた。
あいつが新しい特例か? 」

「牧野君ですか。面白い子でしょ」

「面白い? あいつは言葉を知らん。
他の神に会わぬことを願ってやる。
代わりに私の担当にあのイケメンを置け」

「新田君ですか……彼はダメですよ」

「なぜだ。
特例は生気を取られても問題ないだろう」

「そうなんですけどね。
彼は下界では有名人なので」

「だったら他のイケメンを差し出せ。
そしたらトリアとのコンビを、
許してやろう」

「う~~~~ん…仕方がない、
特例のイケメンホープを、
担当にしましょう。
彼は派遣課なので、
下界にいることも多いですからね」

「新田と同じくらいいい男か? 」

「いい男ですよ」

「……ふむ。では、それで手を打とう」

こうして向井が知らぬうちに、
冥王と赤姫の密談は終わった。
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