第26話 水晶玉交換

文字数 1,370文字

何も知らないアンナが、

「何かが近くまで来ています。
この水晶で除霊する瞬間が、
皆様に伝わるといいんですけど」

何やら呪文を唱え始めた。

背後にいたスタッフの一人がよろめく。

「ちょっと、何してるのよ。
危険なのよ。ちゃんとしなさい!! 」

そんな様子を見ていた牧野が、

「なっ、あのクソババァ。
何も見えないのに偉そうだろ? 」

「言葉が汚いですよ」

「いいんだよ。あんな奴らのせいで、
俺たちの仕事が増えてるんだからさ」

「でも、
倉田さんに勝てる霊電が手に入るんだから、
いいじゃないですか」

向井が言うと、

「それくらいのいい事でもなきゃ、
やってらんねぇよ」

牧野が愚痴を言うのと同時に、
悪霊が水晶に取り込まれた。

「よし。今だ!! 」

向井が両手で小さな円を描き、
時間を止めた。

その一瞬の間に、
牧野が水晶玉を浮かせて、
瞬間移動させる。

水晶玉はふわっと浮かび上がると、
入れ替わった。

向井は周囲の状況を確認しながら、
手を軽く叩き時間を動かした。
辺りの空気が、
瞬時に軽くなったのが分かった。


アンナが、

「水晶が光に包まれました。
除霊が成功したようです」

嬉々とした様子で、
カメラを前に説明する姿を見て、

「そりゃ正真正銘、
一点の曇りもない水晶だからな。
気分も清々しいだろうよ」

牧野が鼻で笑い、
水晶を佐久間に渡した。

佐久間がそれを、
特殊な袋に入れるのと同時に、
仕事を終えた安達が戻ってきた。

「外にいた浮遊霊は全部回収した」

四人は姿を消した状態なので、
周囲からは見えていない。

佐久間はその答えに結界を解き、
四人も通常の姿に戻した。

「あの数を全部、冥界に送ったのか? 
すげえな」

牧野が驚く。

「安達君には特殊能力があるんですよ」

「なにそれ」

「頭にあるリングは、
特殊能力を作動させる力もあるんですよ」

「えっ、すげえ。
それって、
孫悟空の輪っかみたいなもんかと思ってた。
嘘つくと締め付けられるやつ? 」

「………」

安達がムッとした顔をした。

「そんな便利なもんなら、俺も欲しい。
何で安達だけ? ずるい!! 」

「これは人を選ぶんですよ。
だから俺も佐久間さんも無理。
牧野君が使いこなせるとは思えないな」

「チェッ」

牧野は面白くなさそうに舌打ちした。

「とりあえず、大収穫じゃないですか。
こんな大物捕まえられるなんて、
さすが牧野君だ。お手柄ですよ」

「えっ、そ、そう? 」

向井に褒められ、
牧野は嬉しそうに照れた。

「向井さんは、
牧野君の扱いが上手いですよね」

佐久間が小声で言いう。

「まあ、子供の扱いはね。
これでも学生時代は、
ベビーシッターのバイトで、
評判よかったんですよ」

「それはお母さん達にでは? 」

「親御さんにも喜んでもらいましたけど、
子供達にも人気あったと、
思うんですけどね」

自分がモテることに無頓着な向井らしいと、
佐久間は笑った。

「なんですか? 」

「いえ、
向井さんはそのままでいいと思いますよ。
それと牧野君を子供だなんて言ったら、
怒られますよ」

「言いませんよ。ハハハ」

向井が笑った所で、

「俺、腹減った。肉、肉食べたい~!! 
食いに行こうぜ」

牧野が体を振りながら、
駄々っ子のように声を上げた。

「前言撤回します。大きな子供です」

「ですね」

二人が笑うと、

「なんだよ」

牧野が面白くなさそうに膨れた。

「ほら、そんな顔しないで、
焼き肉でも食べに行きますか」

向井は若い二人を急き立てながら、
佐久間とのんびり歩いていった。
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