第35話 新たな妖怪 千乃

文字数 1,016文字

向井が死神課を出るのと同時に、
トリアがやってきた。

「向井君、仕事は無事終わったよ。
山川はいつものカフェテラスで、
虎獅狼と一緒だから」

「ご苦労様でした」

「あ~疲れた。メンテしてこよう」

トリアが両手をグルグル回すと、

「あっ、そうだ。松田さんの漫画。
あれ、面白かったよ。
多分、連載決まるんじゃないかな」

「そうですか」

「もし、連載となると……
ちょっとまずい事になるかも? 」

トリアが首を傾けた。

何か嫌な予感が……
向井が眉を顰めると、

「松田さんが連載になったら、
暫く山川に、
専属アシをしてもらいたいって」

「暫くって、どれくらい? 」

「さぁ? 山川も一応、
事務所に聞いてみると言ってたけど、
話も面白いし、
描きたいっていうんじゃないかなぁ~」

「はぁ……」

向井は疲れの溜まった、
長い溜息をついた。

「さっきそこの入り口付近に、
冥王がいたので……」

「そのこと話した? 」

「話したよ。だって、
漫画の続きを教えてくれってうるさいし、
かといって仕事内容を話せないでしょ。
だから誤魔化しながらちょこっと……?」

「で、何か言ってた? 」

「本人が描きたいなら、
やらせてもいいみたいな……? 
ほら、
冥王あの漫画にハマってるでしょう」

これじゃ、当分再生しそうにないな………

「ふぅ……分かりました」

「そんな顔しないでよ。
私だって当分、
憑依されることになるんだからさ。
向井君もファイト♪ 」

トリアはそういって笑うと、
その場を去っていった。


――――――――


向井はいつものアーケードに来ると、
葵の姿を探した。

みると虎獅狼の他に、
あらたな妖怪の姿があった。

恐らく犬鳳凰だろう。

向井は額に手を置くと、
ゆっくり彼らに近づいて行った。

「それでその続きはどうなんだ? 」

「それがね~」

「山川さん、
内容をむやみに教えてはいけませんよ。
契約に触れてしまいます」

葵が漫画の続きを、
虎獅狼たちと話しているのを聞いて、
向井が釘を刺した。

「おぉ、向井か」

虎獅狼が振り返った。

「まあ、いいじゃない。相手は妖怪だし、
外に漏れることはないんだからさぁ~」

「いけません。トリアさんだって、
冥王に言いませんでしたよ」

「…………」

むくれる葵に、

「お前は役人か? 」

虎獅狼が言った。

「なんとでも言ってください」

向井がそういったところで、

「へぇ~これが噂の向井殿? 」

孔雀のような派手さを持った鶏が、
品定めするように見て笑った。

「男前じゃないの」

「それはどうも」

怪しい三人が集まって、
いったい何をやっているんだか。
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