第27話 冥界の休憩室

文字数 1,114文字

数時間後――――

特例の休憩室に戻ると、
珍しく早紀と弥生がお茶をしていた。

「あっ、ケーキじゃん。
俺のもある? 」

牧野が言うと、

「皆さんの分もありますよ。
先程まで倉田さんがいて、
人気のケーキを持ってきてくれたんです」

弥生が立ち上がって、
お皿の用意をしてくれた。

背が高く気の強い早紀と比べると、
細くて繊細な女の子という印象だ。

「珈琲と紅茶はインスタントですけど、
お好きな方をどうぞ」

「倉田、何しに来てたの? 」

牧野が楽しそうにケーキの箱をのぞく。

その横で安達も嬉しそうに選んでいる。

「あんたがいつも遊び歩いてるから、
会わないだけでしょ。
定期的に戻ってきてるわよ」


ここ冥界は冥王がいる中央を中心に、
左右でサテライトオフィスがある。

倉田と岸本は北方面と西方面。

それぞれの近辺を担当しているため、
中央には時々戻ってくる。

オフィスにはそれぞれ、
死神が十二人ほど配置されているが、
中央に比べると静かなものだ。


「今日は報告と相談に来てたんです」

弥生がそういい、
紙ナプキンをお皿に置いた。

「へえ~、あっ俺、ショコラがいい。
安達はどれにする? 」

「キャラメル」

「向井と佐久間はどれにする? 」

「なんでもいいよ」

二人は笑いながら見ていた。

「そうだ、
今日はすき焼き弁当買ってきたので、
欲しい人は持っていっていいですよ」

「いいんですか? 
じゃあ、私はこれで戻るんで、
田所さんと源じいと真紀子さんにも、
頂いていきますね」

「どうぞ」

向井はにっこり微笑むと、
恥ずかしそうにする弥生にお弁当を手渡した。

「失礼します」

弥生は頭を下げると、
部屋を出て行った。

「その笑顔。罪だなぁ~」

早紀はそういうと向井をじっと見た。

「何か俺、まずい事しましたか? 」

「佐久間さん、この人どう思います? 」

「処世術として、
笑顔を武器にする人はいますけど、
それができるほど、
向井さんは器用じゃないですからね。
まあ、私達は死人ですから、
ある意味、
鈍感というのも幸せかもしれませんね」

佐久間は席に着くと、
チーズケーキを皿に乗せた。

「何の話? 」

牧野がケーキを頬張りながら聞いた。

「お子様は黙って食べてなさい」

「なんだよ! 」

「ここはいつも賑やかだな~
さっき帰り際に倉田さんに会って、
ケーキがあるって言われたんだけど、
まだ残ってる? 」

新田が入ってきた。

「あるよ~
ついでにすき焼き弁当もあるよ~」

「ついでってなんだよ」

早紀の言葉に牧野が怒ると、

「牧野君はお金を払っていないんだから、
怒っていいのは私と向井さんですよ」

「あら、ごめんなさい」

早紀が笑った。

死人も元は人。

こんな何気ない日常にホッとする。

向井はそんなことを思いながら、

「じゃあ、俺もケーキを頂こうかな」

と、彼らの輪の中へ入っていった。
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