第38話 死神のマネージャー

文字数 1,426文字

向井はそんな彼らをおいて、
死神課にやってきた。

「向井さん。
くるみ君の書類審査通りましたよ。
まあ、当然ですけどね」

セイが自慢げに言う。

「今、シェデムを呼んだので、
ちょっと待っててくださいね」


くるみの受ける舞台は、
「ザ・ダンス」というミュージカル。
ジャズダンス、バレエ、
タップダンスなどの、
ダンスがメインのストーリーだ。

踊りっぱなしという作品で評判になり、
一般公募で、
ダンサーオーデションをするという事でも、
話題を呼んだ。

重要な役のプロダンサーは、
すでに配役が決まっているが、
メインキャストの一部が、
歌やセリフの略ないダンサー役になる為、
ダンサーはこぞって、
オーデションに参加していた。

くるみはその中の、
ストリートダンサー役を見て、
ずっと出たいと言っていたので、
オーデションに間に合ったことに、
向井はホッとしていた。

この後はダンスと面接で決まる。

最後に大きな舞台に立って、
悔いなく次の人生へと踏み出してほしい。


向井がカウンターで待っていると、

「お待たせしました。
彼女がシェデムです。
次のオーデションからは、
シェデムが同行します」

童顔だが、印象としては秘書のようで、
身長も考えていたより高めだ。

「シェデムです。
先程、
くるみさんのレッスンを見てきましたが、
二次は通過するでしょうから、
最終まで通ったら舞台終了まで、
私がケアにあたります」

向井が安堵の表情になったのを見て、
セイが補足した。

「彼女は死神の中では、
多くのグループセクレタリーを、
経験してきたので、
アシストは任せられますよ」

「まあ、秘書という名の何でも屋です」

シェデムが小さく微笑んだ。
オーデションが終わると、
キャストの発表。

公演は2ヵ月後なので、
舞台が無事終わるまで、
シェデムにはくるみの手助けを、
お願いすることになる。

「有難うございます。
くるみ君の頑張りを見てきたので、
安心しました。
宜しくお願いします」

向井は頭を下げると、
気がかりの一つが消えて、
胸をなでおろした。


死神課を出た後、
その足でトレーニングルームに向かった。

室内に入ると、
いつもはにぎやかな場所に、
死神の姿も少ない。
恐らく除去課の方に、
駆り出されているのだろう。

くるみの姿も見当たらず、
向井が立ち止まっていると、
ランニングマシンに佐久間の姿があった。

「あれ? 佐久間さん。
トレーニングですか? 」

佐久間は向井の声に走りを緩め、
ゆっくり歩きながらマシンを止めた。

「牧野君に付き合って移動してるので、
死人と言えども体力がね」

佐久間は息を整えると近づいてきた。

「停止した年齢が三十五なので、
丁度下り坂の年でしょう。
二十一歳の子と行動を共にするのは、
正直キツイですよ」

「確かに安達君と違って、
牧野君は動きっぱなしですからね。
ハハハハ」

向井が笑った。

「くるみ君に用ですか? 
少し前までレッスンしてましたけど、
さっきティン君とエルフさんと一緒に、
ウェアを買いに行きましたよ」

「そうですか。
別に用というわけではないんだけど、
マネージャーが決まったので、
話をしておこうかなと思って」

「くるみ君、
ティン君のファッションに、
憧れてるみたいで、
ティン御用達のショップに行くって、
嬉しそうでしたからね。
着用するのはティン君ですけど、
踊るのはくるみ君なので、
動きに合わせたものがいいだろうと」

「まあ、久しぶりのダンスだし、
緊張もしていると思うから、
いい気分転換になるかな」

向井はそれだけ言うと、

「じゃあ、戻ってきてから報告しますか」

佐久間と別れ、部屋を後にした。
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