第8話 小鬼も冥界へ

文字数 1,653文字

補導課は自分が死んだことも分からずに、
うろついている霊を補導するのが仕事だ。

思いの強いものは派遣課に回されるので、
それ以外の霊は、
悪霊などの餌食になることが多い。

その為、
光の渦に乗らなかった霊魂は見つけ次第、
冥界へと連れていく。


そんな早紀と安達の様子を、
じっと見ていた小鬼が震えだした。

早紀がその姿に、

「ほら、安達君がむすっとしてるから、
この子が怖がってるじゃない」

「違う。みんなで溜まってるから、
霊が集まってきた」

向井が周りを見ると、
確かにいつもより多いかもしれない。

幽霊だけじゃなく生霊もいるので、
感知能力が高い人間は、
きっと気分が悪くなるだろう。

特例の人間は、
オンオフで切り替えているので、
仕事をしないときはオフにして、
霊を見ないようにしている。

センサーを切っておかないと、
見えっぱなしで疲れる。


牧野が小鬼に言う。

「霊なんて見なきゃいいんだよ。
怖がると寄ってくるから気にすんな。
俺なんか切り替え面倒だし、
見えても無視するのみ」

「はあ~大物だわ~
あたしなんて仕事が終わったら、
シャッター降ろしちゃうから、
ほぼ見ない。
だって上に行ったら死人だらけなのよ。
下でも幽霊見てたら、
神経参っちゃうじゃない」

「この子はまだ子供だし、
妖怪は長生きだから、
使役には時間がかかるかもしれませんね」

向井の言葉に、

「じゃあ、悪霊退治なんて無理じゃん。
幽霊怖い妖怪なんて、
どうやって生きてくのよ。
すぐ死んじゃうわよ」

「僕、死んじゃうの? 」

早紀は小鬼を見下ろした。

「……ほかの妖怪に食べられるか、
悪霊に取り込まれるか。
二つに一つだわね」

両手で小鬼を襲うような仕草をした。

泣きそうな顔の小鬼に、

「お前は意地が悪いな」

牧野が刺身を食べながら言った。

そんな小鬼を見て、
向井は席を立つとひょいっと、
子供を抱き上げるように片腕に乗せた。

「俺はここで帰るとします。
これ以上お偉いさんを、
待たすわけにもいかないからね。
この子は俺が、
死神のところに連れて行くから、
君らはもう少し飲んでていいですよ」

「えっ? いいの? 」

牧野が喜んだ。

「若いもん同士、
たまにはのんびりするのもいいだろ? 」

「そういわれたら、俺も帰らなきゃな」

田所が笑った。

「働き過ぎで、
死人の過労死だって言ってたでしょ。
ここらで帰って寝るのがいいと思いますよ」

向井はそういうと小鬼に話しかけた。

「許可が下りれば、名前ももらえるし、
施設で暮らせる。
ご飯も食べられるし、
おもちゃで遊べるよ」

「ほんと? 」

「ああ」

向井はそういうと、

「ここまでの飲み代は、
俺と田所さんのおごり。
追加分は君らで払ってください」

「ラッキ~ゴチになります!! 」

「えっ、俺も払うの? 」

驚く田所に、

「当然でしょ。
一番飲んで食べてたんですから」

向井は皿から一本つくねを取ると、
食べたそうにしていた小鬼に渡した。

小鬼が嬉しそうに口に入れる。

二人は楽しげな四人を置いて、
レジに向かった。

支払いを済ませると、
丁度新たな客が数人入ってきた。

「いらっしゃい」

店員が声をかける。

「今日はドローンの数が多いよな」

「政府偵察機だろ」

「気をつけないと、
不穏分子にされて捕まるぞ」

「この前も、
政策に不満を漏らしただけなのに、
連行されたやつを見たよ」

「あ~やだやだ。
まさかお前スパイじゃないだろうな」

「そんなわけないだろ」

客は不満げに呟きながら、
店の奥に歩いて行った。

店員はその話に店の外に出て、
空を見上げた。

「この辺も政府法案に逆らった店が、
何軒も潰れてるんで、
うちも気をつけないと」

「大変ですね」

向井が言うと、

「仕方がないです。
一つ反対すると、
新たな法案ができちゃうんで、
うちのような店はもう何もできないです。
商売の許可が下りてるだけで、
有難いですね」

店員は苦笑いすると、

「また来てくださいね」

と店に戻った。

「なっ。
これだから再生するのに悩むわけよ。
もう少しこの仕事してるかな」

田所はそういうと歩き出した。

向井もそのあとをゆっくり追っていく。

生きるも地獄。死ぬも地獄。

同じ地獄なら冥界にいるほうが自由か……

向井はフッと笑った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み