第33話 冥界写真集

文字数 1,105文字

くるみがダンスレッスンを開始して数日。

オーデションを待つ間、
くるみは暫くティンとエルフと一緒に、
トレーニングルームにいることになり、
向井は死神課で手続きを始めた。

「セイくんはいますか? 」

「はい、はい、あっ向井さん」

セイが慌ててやってきた。

「トレーニングルームに、
出入り禁止中なんだって? 」

「そうなんですよ~
ひどいと思いません? 
ちょっとくらい、
見学させてくれてもいいじゃないですか。
それなのに……」

むくれるセイに、

「はい、これ。くるみ君のサインね」

向井が色紙を手渡した。

「わ!! ホント? 
やったぁ~!! どこに飾ろう」

セイはニコニコ笑いながら、
サイン色紙を眺めていた。

「あっ、そうだ。
名前を来栖十夜にして、
くるみ君のと言ってもティンですけど、
プロフィール写真と書類、
出しておきましたよ」

「仕事が早いなぁ。助かります」

「なんのなんの。
で、ティンの写真見てみます? 」

「えっ、あるの? 見たいな」

セイがタブレットから写真をタップした。

全身、アップと、
まるでスチールモデルのようなカットが、
出てきた。

「驚いたな。これ誰が撮影したの? 」

「フフフフフ」

セイが意味深に笑った。

「これは動物写真家で有名な加納佐吉氏が、
撮影協力してくれました」

「そうなの? 」

向井もその名前にびっくりした。


加納佐吉は、
派遣霊に登録されている一人で、
最近までまだ撮りたいものがあると、
死神を借りて、
向井とともに、
関東近辺だが撮影して歩いていた。

ビルからの街の風景。

公園から見た青空。

新芽を摘む鳥。

ごく普通に存在する写真を、
楽しそうに撮影していた。

若い頃は世界中を回って、
自然界の動物を神秘的に写し、
注目された芸術家の一人だった。

玉突き事故で亡くなった後、
派遣霊として三年前に登録されていた。

向井が加納に、
何を撮影したいのか尋ねると、
「日常を残したい」と言うので、
彼の撮影に付き合っていたというわけだ。

恐らく頭の中には、
明確なビジョンがあるのだろう。


「でね」

と、セイが話をつづけた。

「ジャジャジャジャーン!! 」

一冊の写真集を向井の前に置いた。

これは……

「そう、加納佐吉の冥界での写真集です」

「今まで彼が撮り続けたものを、
本にしたんですか? 」

向井も驚きながら本を手に取り、
ページをめくった。

「冥王が彼の写真集を、
図書室に置きたいと本にされたんです。
で、その中の一枚を、
ギャラリーに飾る予定なんですけど、
加納さんがもう一枚、
飾ってほしい写真があるそうで、
ギャラリーができるまで、
再生は待ってほしいとか」

「そうですか。加納さんも逝かれますか」

向井はしみじみと言いながら、
あるページで手を止めた。

!! 」

「それ、綺麗でしょう」

セイが言った。
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