第23話 死人も厄年?

文字数 1,383文字

「あっ、ごめん。起こしちゃった? 」

新田が言うと、

「何話してたの? 」

早紀が寝転がったまま聞いた。

「俳優の時より今の方が、
ドラマみたいだって話」

向井が言った。

「あ~それ、なんか分かる~
俺も死んでるのに、
死んでるって実感があまりないもん。
映画を見てるみたいな感じ? 
悪霊に囲まれてるときだけ、
やっぱ俺死んでんじゃん? 
みたいな? 」

牧野が両手を上げて伸びをした。

「そういえば……
俺が大きな役をもらったのって、
牧野君の年くらいだったな。
あの時はちょうど前厄でさ。
事務所が厄落としをするのしないので、
随分揉めたんだよなぁ~」

「ああ、
役者さんはそういいますよね」

「何かあるの? 」

安達が聞く。

「役を落とすっていって、
俳優さんは厄落とししないのよね」

「まあ、迷信だけど、
俺は自分というより、
作品に関係している人に、
何かあったらめざめが悪いので、
きちんとやりましたよ」

「厄年って……
死んでてもやったほうがいいのかな? 」

牧野がふと考え込むように言った。

「死んでるんだから、
厄なんてないでしょ? 」

早紀が言うと、

「ん~でもさ、
悪霊にやられちゃうとか……?  

俺、生きてれば二十三歳だし……
そろそろ厄じゃん? 」

「だったら、
あたしだって生きてれば前厄? 」

「ばばぁだな」

「うるさい!! 」

早紀が牧野にクッションを投げつけた。

「そういえば……田所さんは死んでるのに、
厄落とししたとかしないとか?  
何か話を聞いたんだけど、
忘れてしまったな」

「そうか、田所に聞けばいいんだ」

牧野はサッと立ち上がると、

「消去課にいるよね」

部屋を出て行った。

「ちょっと待ってよ。あたしもいく~」

早紀もそのあとを追っていく。

「厄落としなんて、
気の持ちようだと思うけどね。
俺も腹減ったから、なんか食べよう」

新田がテーブルからサンドイッチを取ると、
口にくわえた。

その横で安達がTVを付ける。

画面からオープニングが流れるのを見て、
ああ、これがそのアニメか……
安達に買ってきたアニメグッズを、
思い出した。

向井が冷蔵庫からビールを持ってくると、
新田に渡した。

「飲む? 」

「有難うございます」

新田がプルトップを開けた。

真剣になって見ている安達から、
TV画面に視線を移すと、

「あっ、このアニメの原作。
俺にオファーがきてたんですよ。
この前、映画化されたでしょ。
まあ、死んじゃったんで、
結局出れませんでしたけど」

「そうなの? 」

向井が聞くのと同時に、
安達も振り返った。

ヒーローでも見るような、
憧れのまなざしだ。

「そんな目で見られてもね。
生きてれば主演だったのに、
ちょっと惜しかったかな。
あははは」

新田がビールを飲みながら笑った。

向井もそのアニメを見ながら、
何気に時計を見る。

「最近はアニメも夜中なんですね。
明日も忙しいし、
今日は疲れたから……
ここで寝ちゃおう!! 」

ビールを飲み干すと、
ソファーに寝転がった。

「なんか学生時代を思い出しますね」

新田も横になると、
そのまま流れているアニメを見た。

「死んでここに来た時は、
この先どうなるんだ? 
と不安だったんですけど、
今は死人の人生も悪くないかも……
と思ったりね」

「まあ、死んでしまったものは、
どうしようもないですからね」

向井も自分の死を、
客観的にとらえられるようになっていた。

「そうですよね」

二人はしみじみとそんなことを言いながら、
アニメを子守唄に、
いつの間にか眠りについていた。
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