第111話 冥王という人物

文字数 1,116文字

「これは……」

冥王が難しい顔をして考え込んだので、
向井とアートンがその様子に聞いた。

「なんですか? 」

「彼を向井君の助手にするか? 」

「助手? 」

二人は吃驚し、冥王に顔を近づけた。

「いやいや、
そんなに驚くことじゃないでしょ」

「驚きますよ。黒谷君は人間ですよ」

向井が言うと、

「別にワトソンという訳ではなくね。
監視対象から、
外すわけにもいかないので、
情報をもらいつつ、
彼に必要なものを与えるとかね。
現金は無理だけど、
何か困ったことがあるなら、
出来る範囲で彼の望むものをさ」

冥王が言った。

「だったら、住む場所が決まったら、
生活に必要なものが、
欲しいみたいですよ。
高田さんは困っている時に、
差し入れていたみたいなので」

「ほお~
高田君はそんなことをしていたのか」

「だったら、
向井君にもそうしてもらえますか? 
この先今いる特例と、
顔を合わすこともないとは、
言えないので、
出来るだけ穏便に、
いたいじゃないですか」

「冥王はこういうことに関しては、
僕たちに丸投げで、
手軽に済ませようとしますよね」

アートンがあきれ返ったように言った。

「そんな嫌味を言わないでくださいよ」

向井はそんな二人のやり取りに、
少しずつだが、
冥王という人物が、
分かってきて笑顔になった。


翌日―――

向井が下界から戻ってくると、
冥界がいつになく騒がしかった。

何が起こったのか、
冥界内がピリピリした雰囲気で、
漂っていた。

向井は死神課にいるセイに声をかけた。

「何かあったの? 」

「あっ、向井さん」

セイがわたわたした感じに、
カウンターから出てきた。

「今ね、地主神が乗り込んできて、
凄い騒ぎだったんですよ」

「地主神? 」

「僕なんかもう少しで、
腕を取られるところだったんですから」

向井は眉をひそめた。



今から数時間前―――

「あの…ですから、冥王は今仕事中で」

エナトが説明しているのも聞かずに、

初老の女が入ってきた。

「馬鹿にするな。
冥王がここから出られないことくらい、
私だって知っている。
とに角、
話を聞くまで帰るつもりはないぞ」

響く声で女は怒鳴った。


冥王室では、

「冥王いつまでも、
隠れているわけにはいきませんよ。
少しでいいから話を聞いて、
ここから出て行ってもらわないと」

アートンがそういって、
机に頬杖ついている冥王を見た。


「あんたこんなとこまで来て、
勝手なこと言ってんじゃないわよ」

トリアが出てきて女の眼前に立ち現れた。

「お前はまだいたのか」

「いるわよ。
あんたみたいな女がいる限りね」

その言葉に女の高笑いが響いた。

「私にその物言い、いい度胸だ。
私を下賤扱いするのはお前だけだ。
だが、
千年と生きてきた私にはかなわんだろう」

「生きすぎだわ。ババア」

「わ、私をババア呼ばわりするか。
赤姫のこの私を!! 」
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