第113話 冥王と赤姫

文字数 1,292文字

「そんなことがあったんですか? 
俺もその赤姫を見てみたかったですね」

向井が腕を組んで笑うと、

「何言ってんですか? 
あれは鬼ですよ。鬼!! 
神なんてもんじゃないです」

セイは、
思い出すだけでも嫌だというように、
身震いしながらカウンターの奥へと、
戻っていった。

「あっ、向井さん。
帰られていたんですね。
冥王が探してましたよ」

オクトがやってきた。

「今どこにいますか? 執務室? 」

「いや、食堂かな? 
赤姫とやりあって、
お腹が空いたって言ってたから」

オクトが笑った。

「セイ君の話では、
赤姫って相当怖いらしいね」

「ああ、彼女にからかわれて、
ちょっと怖い思いを、
させられたんですよ。
まあ、いつもの事ですけど、
赤姫は何をするかわからないので、
彼女が来ると、
冥界はピリピリするんですよ」

「ふぅ~ん。
じゃあ、食堂に行ってみますね」

向井はそういうと、
手を振って歩いて行った。


――――――――


食堂では冥王が、
トリアとアートンと、
何やら話しながら食事をしていた。

向井が近づいて声をかけると、

「やっと来た。
向井君、
面白いもの見られなくて残念だったね」

トリアがケラケラ笑いながら言った。

「いや、いなくて正解ですよ。
あの人イケメン好きだから、
向井さんも狙われちゃいますよ」

アートンが言った。

「イケメン好き? 」

向井は何が何だかわからず、
聞き返すと席に着いた。

「新田君がもう少しで、
赤姫の餌食になるところだったのよ」

トリアが笑って紅茶を飲んだ。

「今死神課の前を通ったら、
赤姫の話題で騒いでましたよ。
余程インパクトのある方なんですね」

「まあ、
地主神の中では中央にいる神なので、
冥界でも一番話題に上がる、
女性ではありますね」

冥王が説明したところで、
ドセがやってきた。

「向井さんも何か召し上がりますか? 」

「そうですね。
では、皆さんと同じものを」

向井は冥王たちが食べている、
スコーンを見てから言った。

「わかりました」

ドセが頭を下げて去っていくと、

「実はね。
あの赤姫と特別室の大沢は、
いろいろあってね。
このところ大沢のやり方に、
赤姫の怒りが、
溜まっていたんだと思うんですよ。
人間に利用されていることにも、
ご立腹でね」

冥王が乾いた笑いをした。

そこへドセがスコーンを運んできた。

「有難う」

向井はそういうと、
ドセが下がるのを見て、
冥王の話の続きを待った。

「で、向井君には悪いんだが、
赤姫と安達君も、
できれば会わせたくはないんで、
暫くは特別室の様子をうかがいながら、
安達君も見ていてほしいんです」

「派遣の仕事も溜まっていますけど」

「それもしばらくは放っておいてください」

「分かりました。
赤姫は下界の神なんですよね。
安達君と会わないでいるのは、
難しくないですか? 」

向井がスコーンを食べながら聞くと、

「大体地主神って、
普段は表に出てこないのよ。
お供えして祭りをしてれば、
大抵はおとなしくしてるものなんだけど、
赤姫の場合は少し問題があってね」

「そうなんですか」

向井は頷くとそれだけ言って、
三人の様子をうかがった。

「まあ、神様も色々あるってことよ。
これも神だしね」

トリアは冥王を指さすと笑った。

冥王は渋い顔をすると、
スコーンを口に放り込んだ。
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