第43話 浮気の霊体

文字数 1,347文字

そこへ工房から出てきた元秀が、
向井を見つけると声をかけてきた。

工房とギャラリーは、
まだ出来上がってはいないものの、
再生への道に進むために、
動き出す霊達も増え始め、
それぞれが皆、楽しそうだった。


「向井さん、冥王の話を聞いたら、
図案に起こしますから」

彼もここにきて心嬉しいようで、
よくしゃべるようになった。

これが本来の彼の姿なのかもしれない。

「悪いですね」

「そんなことないよ。
冥王の部屋に飾るものでしょ。
死んだ後の作品が、
冥界で残るなんて凄い事だからね。
だって、死んだあとじゃなきゃ、
このギャラリーを見られないんだよ」

「そういわれたらそうですね」

「だろ? 」

元秀が笑った。


その時、
医務室に運ばれていく霊の叫ぶ声が、
サロンに響いてきた。

「なんだ? 」

サロンにいた霊がぞろぞろと、
出入り口から顔をのぞかせる。

向井も一緒に見ていると、
数か所刺されているのか、
身体のかけた霊体が、
運ばれる途中だった。

「痛ぇよ! 何とかしろよ! 
この野郎!! 」

「何者ですかね」

美樹本が言った。

「この騒ぎは何ですか? 」

向井が廊下に出て行く。

「なんだ、テメェ」

「随分刺されているみたいですけど、
これ除去霊じゃないんですか? 」

向井が運んでいる死神オクトに聞く。

「それがですね~
閻魔帳によると、
そこまでの問題霊ではないみたいで、
医務室で治療後、
隔離サロンに運ばれて、
そこから消去に回されるそうです」

隔離サロンは、
除去されるほどでもないが、
問題のある霊を集めている部屋だ。

通常のサロンにいる霊は、
冥界内の決められた場所、
図書室や工房など、
自由に動ける場所もあるが、
隔離サロン霊にはない。

毎日ベルトコンベアの上に乗せられ、
次から次へと消去されていくので、
他の再生霊魂とは区別されている。


「ふぅ~ん」

向井はそういって、
態度の悪い霊体の傷口に触れた。

「うわああああ~!! 
何すんだよ! テメエ! ぶっ殺すぞ! 」

あまりの激痛にのたうち叫ぶ。

「ぶっ殺すだって~
ここは死人の集まりなのにね~」

早紀がふき出して笑い出した。

「で? 何で刺されたんですか? 」

向井が男に聞くが、
何も言わないのでオクトに視線を向けた。

「くだらない事ですよ。
浮気女が二人いて、
もめにもめて、
最後は奥さんにバレて、
刺されて殺されたんです。
自業自得ってとこですね」

「わぉ~冥王が好きそうな話ね。
泥沼の愛憎劇の末、
ラストは刺されて死ぬ……」

図書室から出てきた河原は、
楽しそうにニヤリと笑った。

「でも…見た目が良くないのが残念…」

早紀がため息をつく。

「あら、早紀ちゃん。
女にモテる男って、
存外顔は良くないものよ。
口が上手いの」

まり子がホホホと笑って、
サロンに戻っていった。

「なんだよ! てめえら! 
見せもんじゃねえぞ!! 」

「そんな男、治療する必要ある? 」

早紀が冷めた目で見ていると、
横に立つ元秀も、
バカにしたように鼻で笑った。

「手足がバラバラだった俺に比べたら……」

「とにかくうるさいから、
早く運んじゃって」

早紀の言葉に、
オクトが申し訳なさそうに話した。

「それがさっきバス事故があって、
その霊体達が最優先なんで、
これは後回しなんですよ。
三途の川でも追い出されて、
仕方なくこっちに。
迷惑かけてすいません」

その場にいたものは、
ブーブー文句を言いながら、
部屋に戻っていった。
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