第7話 冥王も死ぬの?

文字数 1,773文字

「冥王室の出入りって、
死神以外では派遣課と再生課しか、
いかないだろう? 
何か聞いてないの? 」

牧野が聞いた。

「みんなが知っていること以外は、
聞いたことはないけど、
今の冥王も任務について、
二百年くらいだし」

「えっ? 冥王って変わるの? 」

三人が驚いて声を揃えた。

「ああ。
いきなり辞令がきて冥王になるらしい。
前任者が亡くなって就任したそうだよ」

「冥王も死ぬの? 」

牧野がビックリした顔をした。

「らしいですね。
俺もよく知らないけど、
人間より長く生きているのは確かです。
昔のこともよく知ってるし、
源じいとは楽しそうに話してますよ。
考えたら冥王も可哀想です。
冥界をうろつくくらいしか、
楽しみがないからね」

「そうなの? 私任命されたときに、
ちらっと見ただけだから、
冥王がどんな姿してるかよくわかんない」

「俺も知らない」

早紀と牧野は顔を見合わせた。

「角があるのをのぞけば、
イケオジ? なんじゃないの」

「ええ~見たい」

「俺も見たい~」

二人が言った。

「冥界にいれば会えると思うけどね。
ちょこちょこ顔を出してますよ」

「ほんとかよ」

牧野は怪訝そうな顔をした。

「そういえば再生課の新田君て、
有名な人気俳優じゃない。
人間界をうろついてて大丈夫なの? 」


今から二年前。

二十七歳の人気俳優が亡くなった事件は、
それはもう大騒ぎだった。

熱狂的ファンが警備をすり抜け、
新田に抱きつき、
それに続いたファンが、
ドミノ倒しのようになり、
結果新田は下敷きになり死亡。


「あの事件は冥界でも話題だったでしょ。
まさか、
彼が特例になるとは思わなかったけど」

「俺達は知人に会ったとしても、
分からないように、
シールドが付いてるけど、
熱狂的なファンだと、
そのシールドを突き破ることが、
あるんですよ。
だから人間界にいる時間の少ない、
再生課に新田君は配属されているわけ」


再生課は消去課から運ばれた霊魂を、
再生させるために壺へと封印し、
冥王に届けるのが仕事だ。

消去も霊魂の上書き回数により、
再生の仕分けが必要になり、
新しいもの、年代物で分けられる。

なので再生課は、
他の特例のヘルプ以外では、
あまり下界には降りてこない。


「人気者は大変だな」

牧野が片肘をついて言った。

「誰が人気者だって? 」

「えっ? 」

四人が振り返った。

「おやおや、噂をすれば、
男前の新田君じゃないか」

田所は椅子を引くと、
座りなよという合図をした。

「いつ見ても目の保養~
冥界では一に新田、
二に向井っていわれてるのよね」

「俺は? 」

牧野が自分を指さす。

「あんた自分の顔、
鏡で見たことあるの? 」

「ちぇっ」

「それより、珍しいよね。
新田君がこんなところに顔を出すなんて」

「向井さんのせいですよ。
雑誌が読みたくて、
冥王は寝ないで待ってますよ。
あと特別室のお偉いさんが、
向井はどうしたって、
そりゃもぅえらい剣幕で、
死神に怒鳴り散らしたみたいで、
ピリピリしてます」

「ハハハ。
年取ると我慢できなくなるんですよね。
これ飲んだら帰りますから。
新田君もここまで来たんだから、
飲んでいきなよ」

「当然でしょ。
久しぶりの下界なんだから、
飲んでいきますよ」

新田はチューハイを注文した。

「十二人しかいない特例が、
ここに五人も揃ってるなんてね」

「五人じゃないよ。六人」

「えっ? 」

五人が声の方を振り返ると、
小柄な目つきの鋭い若者が立っていた。

少年にしか見えない彼は姿を消して、
すんなり居酒屋に入ってきた。

「おや、安達君。
君も仕事帰りかい? 」

田所が聞くと、
安達は隣の席から椅子を持ってきて、
向井と牧野の間に割り込んだ。

ここで一番年が近いからか、
牧野にはよく突っかかっている。

「俺は安達より先輩ですからね。
こんなことで目くじら立てたりしませんよ」

牧野は挑発するように言った。

「………」

安達は無言で、
店員が運んできたチューハイを飲んだ。

「あっ、それ俺の……」

新田は仕方なさそうに、
再度オーダーした。

十七歳で亡くなった安達は、
特例の中では一番年若く、
容姿は少年にしか見えない、
少し異質な存在だ。

頭には、
人には見ることのできない、
孫悟空の緊箍児(きんこじ)のような、
輪が嵌められている。

向井は安達に声をかけた。

「今日は朝から随分と、
霊の補導をしてくれたみたいで、
助かったよ」

「……うん」

「もう。
感謝されたら有難うでしょ」

早紀が安達の頭をボンッと強く叩いた。

「…………」

安達は何も言わずに頭を触った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み