第75話 死神の作られ方

文字数 1,248文字

「あっ、向井。
今日はプリンケーキだってさ。
安達のリクエストなんだって。
俺がフォンダンショコラ食べたいって、
言ってもスルーされてるのに」

牧野は面白くなさそうに膨れた。

「美味しいものを食べてるときに、
そんな顔してるとケーキに失礼だぞ~」

ひょこっと、
向井の背後から現れたトリアは、
牧野に近づくと両頬を、
ぷに~~~っと引っ張った。

「なにすんだよ!! 痛ぇだろ!! 
大体こんな夜中に何してんだよ」

「さっきまでアシスタントしてたのよ。
本当は泊ってこようと思ったんだけど、
山川がチビたちに、
絵を描く約束したって言うから、
戻ってきたの」

そういうと椅子に座って、
カップを一つ取った。

「疲れた体に甘いものって美味しいよね~」

トリアはスプーンを銜えて、
幸せそうに笑った。

向井と佐久間は呆気に取られて見ていたが、
頬を押さえている牧野を見て大笑いした。

「なんだよ。みんなして」

牧野は不貞腐れると、

「俺ももう一個食べる!! 」

カップを手に食べ始めた。

「そういえば、
ちょっと聞きたかったんですけど」

向井もプリンを食べながら、
トリアを見た。

「なに? 」

「失礼なんですけど、
死神って誕生した時から、
その姿なんですか? 」

「あっそれ、俺も気になってた」

牧野がプリンを口に入れて言った。

「ああ~そうだね。
死神は冥王が全て決めてるから、
気づいたらこの姿でここにいる感じ? 
記憶とか性格は初期の段階では、
冥王のインプリンティングだね」

「それってただの刷り込みとは、
違うんですか? 」

佐久間が興味を持って聞く。

「刷り込みされて生まれるけど、
ちょっと違うかな。
あんたらの言うヒューマノイド。
その方が分かりやすいよね。
ただ、
あんなアンドロイドとは違って、
こっちは姿も頭脳も完全な人」

「霊魂でもないってこと? 」

牧野が不思議そうに聞いた。

「私たちの魂は冥王が作った核。
真珠を作るのに大事な芯と同じで、
それを中心に、
モデリングされて生まれるの。
現冥王はきちんと性格や容姿など、
かなり細かく意味を持って、
死神を誕生させてる。
私なんかいい加減に作られて、
生まれてるから、
この性格は今の冥王と一緒に仕事をして、
少しずつ覚えていった感じかな? 」

「冥王は死神の人生にも、
責任を感じているみたいですからね」

「そうなの? 」

向井の言葉に牧野が驚いた。

「そう、そこが前冥王と現冥王の違い。
今の死神は、
穏やかな子が多いのも特徴かな。
初期段階の性格も、
細かく設定されているから、
ここで少しずつ勉強して、
楽しい事や辛いことを覚えていく。
工房とかトレーニングルーム見てても、
楽しそうじゃない?
私の時代はそりゃ酷かったわよ。
だから彼らは幸せだし、
私も今は幸せ~」

トリアはそういって笑顔になった。

「死神も大変なんだな」

「そうよ。だから牧野も、
あまり私らに無理言わないでよ」

「それとこれは別だろ」

「生意気な」

トリアは牧野の頭を叩いた。

「これってパワハラ? 」

「どの口が言う。この口か? 」

トリアが牧野の唇をつまんだ。

そんなやり取りに向井達が笑い、
静かな夜中の食堂に響き渡った。
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