第78話 インペリアルトパーズ

文字数 1,689文字

工房を出た後、
向井がサロンに向かうと、
冥王も一緒についてきた。

「お仕事に戻らなくていいんですか? 」

「今日はいいんです」

そういってサロンを見回す。

このところ消去・再生と、
スムーズに進んでいっているので、
以前のように霊気でムッとすることもない。

向井が周囲を見ていると、
奥のテーブルで弥生が、
何やらトリアと話している姿が見えた。

何だろう。

向井は気になって近づいた。

「二人で何やってるんですか? 」

「ん? 弥生ちゃんに、
指輪を作ってもらおうと思って。
私が作ってもらったものを見て、
松田先生が欲しいって言うんで、
お願いしてたの」

「ほお~」

三人で話をしている背後から、
冥王も顔をのぞかせた。

「冥王も欲しいの? 」

トリアが聞くと、

「作ってもらえるなら、
インペリアルトパーズで欲しいです」

「インペが好きなんですか? 」

椅子に座る弥生が冥王を見上げた。

「当然です。皇帝のトパーズですよ。
私にピッタリじゃないですか」

「何が皇帝ですか。
意味わかってます? 」

「向井君はみんなに優しいのに、
私には冷たいですよね」

「そんなことないですよ」

向井が言うと弥生が笑った。

「でも、
インペは冥王に合ってると思いますよ。
だって、インペリアルトパーズって
神の知恵の守護石なんですから」

「ほら、
私の為にあるような石じゃないですか。
私にも作ってください」

冥王が瞳をキラキラさせながら言った。

「いいですよ。ただ、
松田先生の後になりますけど」

「先生は四月生まれで、
ダイヤモンドなんだけど、
値段も高いじゃない。
なので、ほかの石でいいって。
私が付けているこのインカローズが、
可愛いって気に入ってたから、
ピンクが好きなのかな? 」

トリアは自分のつけている、
リングを見ながら言った。

「ダイヤモンドも、
ハーキマーのような、
クォーツもあるから、
作ることは可能ですけど、
ピンクが好きなら、
モルガナイトで作ってみます? 」

「モルガナイト? 」

そこにいた三人が同時に聞き返した。

「四月の誕生石ですよ。
ピンクの可愛らしい石です。
ちょっと待っててください」

弥生はそういうと、
テーブルの横に設置されたケース棚から、
小袋に入った天然石を出してくれた。

このテーブルは、
まり子が使用していたもので、
再生された後は弥生が使用していた。

「自室で作っていたんだけど、
材料が増えてきちゃって、
こっちに移動してきたあと、
妖鬼さんにお願いして、
天然石用の引き出しも、
作ってもらったんですよ。
え~と、これがモルガナイト」

広げた布の上に、
小袋から出した石を並べた。

「天然石屋さんまわって見つけたの。
可愛いでしょう。
こっちのカットされたルースと、
小さなコロンとした、
タンブルがあるんだけど」

「可愛らしいピンクですね」

向井が言うと、

「そうなのよ。ルースも綺麗なんだけど、
この天然石の淡いピンクも、
何とも言えないでしょう? 」

弥生が手のひらに乗せた。

「これ、写真に撮って、
先生に決めてもらった方がいいかな」

トリアは石を撮影した。

「リングのデザインも、
私の自己流なんだけど……」

弥生がデザインのレシピノートを開き、

「いくつかあるの。
石が決まったら、
それに合うデザインの方が、
ピッタリくると思う。
あとどの指に付けたいかで、
サイズが変わってくるから」

と説明した。

「職人さんですね~」

冥王も感心したように頷く。

「インペリアルトパーズも見たいです。
どんな石ですか? 」

「冥王は、
インペリアルトパーズを知らずに、
偉そうに言ってたんですか? 」

向井があきれ顔になった。

弥生はくすくす笑いながら、
袋を取り出すと布の上に並べた。

「これは宝石質だから、
色もピンク味の強いオレンジで、
凄くきれいなんですけど、
高い石だからちょっと小さめなんです」

「確かに。
輝きは美しいのに小さいです」

「緑川さんにお願いすれば、
インペを分けてもらえるかもしれないので、
もう少し大きい石で作りたかったら、
頼んでみてください」

「ふむ。私に相応しい、
インペリアルトパーズでなければな。
緑川に貰おう」

「何を偉そうに言っているんですか」

「私は偉いんですよ」

冥王が胸を張った。

そんな話をしていると、
工房にいた安達が飛び込んできた。
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