第112話 赤姫登場

文字数 1,105文字

「冥王、そろそろ出たほうが…」

廊下の角からのぞく姿に、
アートンが言った。

「まだまだ、
あの二人の対決は見物じゃないですか。
どっちが勝つと思いますか? 」

「勝ち負けの問題ですか? 」

アートンはあきれ返って首を振った。


「それよりティンとセーズはどうした。
私がここに来たんだから、
あいつらを連れてこい!! 」

「申し訳ありません。
彼らは今別の支部にいまして」

セイがおどおどした感じで言うと、

「なんと、
ここのイケメンが二人もいないとは……」

「だったら帰れば? 」

トリアが一歩前進して、
赤姫に顔を近づけた。

「なんと、この私に無礼千万!! 」

その騒ぎに牧野と新田が、
休憩室から出てきた。

「誰? このおばさん」

「お、おばさん? 
地主神の私をおばさんというか? 」

赤姫のわなわなした姿を見て、
冥王が楽しそうににやにやした。

「牧野君は、
物言いがストレートすぎますが、
面白くなってきましたね」

「……」

アートンは何も言い返す気になれず、
成り行きを見ていた。

牧野は少しの間赤姫を見ていたが、
飽きたのか部屋に戻っていった。

すると、

「ん? お前も死神か? 
いや、違うな。
微かだが人間のにおいがする」

赤姫はその場に残っていた新田に、
視線を止めるとニヤリと笑った。

「ここにいい男がいるではないか。
よし、冥王が来るまで、
こいつを人質にさせてもらおうぞ」

「それは困ります」

セイが言うと、

「なら、
お前の腕を一本差し出すか? 
儀式の落とし前に、
お前の腕くらいじゃ足しにもならんが、
冥王に打撃は与えられるだろう」

「それでここから出て行くなら、
セイ、あんたの腕、差し出しな」

トリアが言った。

「ええ~!! 待って、待って、
腕は困ります」

セイが赤姫に腕を掴まれたところで、

「はい、それまで」

冥王が手を叩きながら出てきた。

「お前が隠れていることくらい、
分かっておった」

赤姫はそういうとセイを床に押した。

「こんなところまで赤姫が来るとは、
何かありましたか? 」

「白々しい」

「赤姫もちょっと見ないうちに、
老けましたね~」

「冥王。火に油を注ぐようなことは」

アートンが耳打ちする。

「お前がそれを言うとはな~」

怒るのかと思いきや、
赤姫は不敵な笑みを浮かべて言った。

「ここで立ち話もなんですから、
奥で茶でも飲みながらどうですか? 
うちのコックは一流ですよ」

「ふん。仕方ない。
ちょっと付き合ってやろう」

赤姫はそういうと、
冥王と一緒に執務室へと歩いて行った。

「何だったんだ? 」

新田は肩をすくませると、
休憩室に入った。

「新田君も牧野も大物だわ。
あの赤姫見て怖がらないんだから。
冥王が特例にした理由も分かるな~」

トリアはそういって笑うと、
セイの肩をポンと叩いて、
仕事に戻っていった。
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