第40話 ジュエリーデザイナー 美紀まり子

文字数 1,736文字

美紀まり子。

世界的なジュエリーデザイナーで、
有名宝石博物館にも、
飾られているほどの作家だ。

居眠り運転の自動車事故に巻き込まれ、
即死。

彼女の残したデザイン画は、
美術館に飾られていた。

亡くなった後、
「このデザインの作品が作れたら、
もう思い残すことはないわ」
そういってサロンに来たものの、
死神課から、
「あの人の求めているものは、
すべて希少石で、
手に入ったとしても、
彼女の求めている色が、
見つからないんですよ。
しかも価格一つが高くて……」
と不平不満が出ていた。


「実はこれなんですけど…」

デザインが素晴らしいのは、
向井でも見ればわかる。

もうこうなると貴重な美術品だな。

「スイートホーム鉱山の、
ロードクロサイトが欲しいの。
できれば北海道産も。
前から言ってるんだけど、
いつも色が違うの。
この作品には、
この色じゃないとダメなのよ。
向井さんも分かるでしょ? 」

デザイン画の色では分かりづらいが、
赤とピンクの中間で発色の良い、
薔薇を感じさせるピンクのようだ。

「宝石は価格も高いですからね。
一応死神課には言っておきますから」

「お願いね」

まり子は憂いを帯びた表情でいうと、
花村と何やら仲睦まじい様子で、
デザイン画を見ながら話を始めた。

向井はそんな二人の様子を見ながら、
サロンを出ようと体の向きを変えた。

出入り口には、
二人を盗み見ている、
冥王と河原の姿がある。

何をやっているんだか……

冥界ゴシップなら、
あの二人が一番詳しそうだな。

向井は二人に近づくと、
「仕事しなくていいんですか? 」
といい、
二人はニヤニヤ笑いながら、
それぞれの場所――――
冥王は執務室へ、
河原は図書室へと歩いて行った。

身体があるかないか以外、
冥界も下界も何ら変わりないな。

向井はそんなことを思いながら、
作業中の工房へと入っていった。


サロンの丁度、
真横に作られている工房は、
幾つかのブースに分かれ、
多くの機材が揃っている。

かなり、
出来上がってきてるのではないのか。

向井が室内を歩きながら確認していると、
冥界大工の棟梁がやってきた。

「かなり立派な工房ですね。
これならギャラリーも期待しちゃいます」

向井が深く感じ入った表情で言った。

「これでも人間に取りついていた時には、
江戸で一番の大工だったからね」

妖艶な鬼というのも珍しいが、
彼にはその言葉がピッタリはまる、
容姿だった。


元々彼は縊鬼(いつき)であり、
以前は冥界の霊の人口も、
一定数に定められていた。

それを現冥王は廃止し、
再生を効率よく進ませる、
現在の形に構築したという。


抑々縊鬼は死者が生まれ変わるには、
新たな死者が冥界に来なければ、
生まれ変われないという、
面倒なシステムの上にいた鬼である。

その為人間に取りつき自決させ、
その霊魂と入れ替わりに、
冥界にいた霊が再生されていた。

現冥王は効率が悪いうえ、
恨みを買うだけと、
この二百年で今の形へと築き上げていった。

ちゃらんぽらんに見えて、
冥界の事を一番に考えているのは、
間違いなく冥王である。

冥界大工はその縊鬼の集団と言ってもいい。


「妖鬼さんは作業が丁寧だって、
評判いいですよ」

「まあな、大工歴は二百年以上だからね~」

妖鬼は笑った。

図書室や食堂も冥界大工が作っていた。


よく死体を前に家族や友人が言う、
「なぜ自殺したのか分からない」
これは縊鬼が関係していることも多い。

冥王の死亡で新たな冥王が、
派遣されることでもわかるように、

冥界とは別にもう一つの世界が存在する。

そこから今でも、
縊鬼が飛ばされてくることがある。

そのたびに、
調査室は縊鬼調査隊を向かわせ、
事件性を捜査しているので、
縊鬼による死亡事件は、
現冥王になってからは、
少なくなっていた。

それでも全くないとは言えない。


「このあとは、
サロンにいる者たちに見学してもらって、
どこをどうしてほしいのか、
意見を聞かないとね」

妖鬼はそういうと、

「ああ、そうだ。
こことギャラリーにも霊電通すから、
牧野に言っといて」

霊電力問題があった…………

「はあ…………」

向井の肩を落とす姿に妖鬼が笑った。

「そんなに落胆しないでよ。
悪霊なんて、
うじゃうじゃいるんだからさ」

「そうはいっても、
集めるのは大変なんですよ。
牧野君の不機嫌な顔が思い浮かぶな…………」

「まあ、頑張って」

妖鬼は向井の肩をポンと叩くと、
仕事に戻っていった。
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