第12話 漫画家松田

文字数 1,090文字

松田雪江は編集部からの電話を切ると、
放心状態でゴーグルを外した。

嘘…ほんと? 


漫画家としてデビューして十二年。

読み切りばかりの仕事と、
月に挿絵のバイトをしながら、
なんとか今まで生活してきた。

デビューしてすぐに、
ネームでOKが出て、
一本連載をもらえたものの、
ヒットまで至らず打ち切り。

公民館で月に一回、
イラスト教室も開催しているが、
バイトの延長くらいの月謝なので、
このままでは一生バイトで生計か? と、
半分あきらめていた。


そんな雪江に女神が微笑んだのだ。

神よ~私は今こそ感謝します!! 

雪江はコンビニに向かう道を歩きながら、
小さくスキップした。

だが、喜んでもいられない。

締め切りまであと二週間。

アシスタントのヘルプが欲しい。

やります!! 描けます!! 
と言ったものの、
急遽入った仕事なので、
すぐには見つからないだろう。


大久保出版は少しマイナーな、
コアなファンで持っている弱小出版社だ。

歴史ファンタジーなら大久保、
と言われるほど、
昔からの人気雑誌がある。

雪江は、
ここで長期連載されている作家のファンで、
持ち込みで編集部に乗り込んだ。

作家になる夢をあきらめきれず、
バイトを掛け持ちしながら、
長い事コミケ作家として活動してきた。

漫画家になるには、
もう遅すぎる年齢ではあったが、
その時の作品が編集者の目にとまり、
デビュー。

だがそのあとが鳴かず飛ばず状態。

この前、
大先生の穴埋めで描かせてもらった短編が、
読者の人気ランキングに入り、
今回この話の続きを長編でもらえた。

これがうまくいけば新連載の可能性もある。

デジタル作家、AI作家の時代。

昔ながらにペンで描いている作家など、
殆どいない。

絶滅危惧種? 

だからこそ失敗したら、
漫画家生命も終わり……? 

何とかアシスタントを探さないと。

「そうだ!! 」

雪江は以前にアシスタントをお願いした、
クリエイター専門の派遣会社を思い出し、
ゴーグルをかけ連絡先を探した。


――――――――――


タブレットを見ていた向井は、
葵が同じ作家のところで、
過去二度ほど、
アシスタントしているのを見つけた。

作家名 松田雪江。

今の状況を少し調べてみるか。 

葵は派遣登録してから、
かなりの時間が経っているはずなのに、
冥界もいい加減だな。

その記録がないぞ?

タブレットを見ながら、
眉間にしわを寄せて考え込んだ。

葵が最後にした仕事は、
確か三年前と言っていたよな……

派遣回数は出ているのに、
日付が抜けてる。

大抵の霊魂は一回、
多くても二回で成仏するものだが、
山川葵にいたっては十回。

一向に来世に進もうとしない。

とっとと成仏してもらわないと。

向井がそんなことを考えていると、
タブレットが光った。
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