第57話 安達の魂
文字数 1,477文字
応接室のソファーに座る向井は、
冥王の話を黙って聞いていた。
「なんでそんなことに……」
向井は絶句して、声がでなかった。
「今から十九年ほど前だ。
この国が何度も繰り返された、
ウィルス発生から自然災害が続き、
事実上機能停止していた年が、
続いただろう? 」
あれは確か向井が中学生の頃だ。
「ああ、ありましたね。
でも、すぐに復旧しましたけど」
あれだけ打ち続いていた災害が、
なぜかいきなり収まり、
そのことでもこの国は神秘だ、
と言われ始め、
大沢帝国が誕生したことでも覚えている。
「それには理由があるんです……
この国は古くから、
歪みがが多く存在しています。
中でも戦禍の時代。
戦後百年以上たった今でも、
禁忌を侵したことは、
今も続いている暗部の歴史です」
冥王はそこで口を閉じると、
考え込むように話しを続けた。
「戦争で受けた爆撃で破壊された結界を、
国はタブーを侵し抑え込みました。
そして戦後数十年経って、
その闇が一気に噴き出し、
更に長い事放置していたことで、
天災地変が起こりました。
当時は私も忙殺されて、
彼らの浅慮な行動に気づかず、
巻き添えになったのが安達君です。
人とは権力の上には、
何をしても許されると、
勘違いするものもいる。
それはどんなに惨い事でも、
正義の二文字の上には成立すると、
考える人は多いんですよ」
冥王は真一文字に口を結んだ。
惨い事………?
向井が眉をひそめていると、
冥王は小さな吐息を漏らした。
「君のような大きな体に成長できたなら、
コントロールもできたかもしれないが、
安達君は生まれながらに体が小さい。
同じ年齢の子に比べても細く、
身長も低い。
それが何を意味するのか……
君にも理解してもらえると思います」
「そんな魂で、
異常な霊感体質を分かっていながら、
なぜ特例に抜擢したんですか? 」
「………彼から愛情を奪った、
償いもあるが、
下界にいる彼を、
見守ることしかできなかった罪も、
私にはあります。
あれ を取り出すのも難しいうえ、
魂の再生もできない。
最後ぐらい、
死人でも人として過ごさせてやりたかった。
彼は死んでから笑うことを知った子です。
ここで君たちとともに、
楽しいことも学んでいる。
人として生まれて十七年。
今が彼の人生の一部だと、
理解してくれないだろうか」
冥王はそれだけ言うと口をつぐんだ。
その魂では再生どころか、
すぐにも焼却しなければならないだろう。
彼の能力値は、
特例の中でも数段優れている理由は、
その魂が関係していたというわけか。
冥王は何を秘し隠したがっているのか、
これ以上は話すつもりはないらしい。
「………分かりました。
とりあえずあのリングがあれば、
安達君の暴走は、
止められるという事ですね」
向井は黙って小さくため息をついた。
そんな時、
「あ……あ…来るな……嫌だ~~!! 」
安達の叫び声が聞こえて、
二人は慌てて応接室を出た。
「安達君!! 」
向井が頭を抱えて、
ソファーでうなっている、
安達の肩を掴んだ。
「あ………あ…む、向井? 」
安達は辺りを見回し、
自分のいる場所が分かったのか、
冥王と向井の顔を交互に見た。
そのあと顔面蒼白のまま、
突然大声を上げて泣き出した。
まるで小さな子供が、
しゃくりあげているようだ。
冥王がソファーの隙間に腰を下ろすと、
安達の背中をさすった。
牧野君は親がいなくても、
伸び伸びとしていて、
適度に甘えることができるが、
安達君は甘えることを知らない。
その差は大きい。
安達君の育ってきた環境を知ると、
今までの彼の態度にも納得がいく。
これから彼をどのように、
見守っていけばいいのか、
冥王はすべてを話したがらないので、
向井は泣きじゃくる安達を、
ただただ見ていた。
冥王の話を黙って聞いていた。
「なんでそんなことに……」
向井は絶句して、声がでなかった。
「今から十九年ほど前だ。
この国が何度も繰り返された、
ウィルス発生から自然災害が続き、
事実上機能停止していた年が、
続いただろう? 」
あれは確か向井が中学生の頃だ。
「ああ、ありましたね。
でも、すぐに復旧しましたけど」
あれだけ打ち続いていた災害が、
なぜかいきなり収まり、
そのことでもこの国は神秘だ、
と言われ始め、
大沢帝国が誕生したことでも覚えている。
「それには理由があるんです……
この国は古くから、
歪みがが多く存在しています。
中でも戦禍の時代。
戦後百年以上たった今でも、
禁忌を侵したことは、
今も続いている暗部の歴史です」
冥王はそこで口を閉じると、
考え込むように話しを続けた。
「戦争で受けた爆撃で破壊された結界を、
国はタブーを侵し抑え込みました。
そして戦後数十年経って、
その闇が一気に噴き出し、
更に長い事放置していたことで、
天災地変が起こりました。
当時は私も忙殺されて、
彼らの浅慮な行動に気づかず、
巻き添えになったのが安達君です。
人とは権力の上には、
何をしても許されると、
勘違いするものもいる。
それはどんなに惨い事でも、
正義の二文字の上には成立すると、
考える人は多いんですよ」
冥王は真一文字に口を結んだ。
惨い事………?
向井が眉をひそめていると、
冥王は小さな吐息を漏らした。
「君のような大きな体に成長できたなら、
コントロールもできたかもしれないが、
安達君は生まれながらに体が小さい。
同じ年齢の子に比べても細く、
身長も低い。
それが何を意味するのか……
君にも理解してもらえると思います」
「そんな魂で、
異常な霊感体質を分かっていながら、
なぜ特例に抜擢したんですか? 」
「………彼から愛情を奪った、
償いもあるが、
下界にいる彼を、
見守ることしかできなかった罪も、
私にはあります。
魂の再生もできない。
最後ぐらい、
死人でも人として過ごさせてやりたかった。
彼は死んでから笑うことを知った子です。
ここで君たちとともに、
楽しいことも学んでいる。
人として生まれて十七年。
今が彼の人生の一部だと、
理解してくれないだろうか」
冥王はそれだけ言うと口をつぐんだ。
その魂では再生どころか、
すぐにも焼却しなければならないだろう。
彼の能力値は、
特例の中でも数段優れている理由は、
その魂が関係していたというわけか。
冥王は何を秘し隠したがっているのか、
これ以上は話すつもりはないらしい。
「………分かりました。
とりあえずあのリングがあれば、
安達君の暴走は、
止められるという事ですね」
向井は黙って小さくため息をついた。
そんな時、
「あ……あ…来るな……嫌だ~~!! 」
安達の叫び声が聞こえて、
二人は慌てて応接室を出た。
「安達君!! 」
向井が頭を抱えて、
ソファーでうなっている、
安達の肩を掴んだ。
「あ………あ…む、向井? 」
安達は辺りを見回し、
自分のいる場所が分かったのか、
冥王と向井の顔を交互に見た。
そのあと顔面蒼白のまま、
突然大声を上げて泣き出した。
まるで小さな子供が、
しゃくりあげているようだ。
冥王がソファーの隙間に腰を下ろすと、
安達の背中をさすった。
牧野君は親がいなくても、
伸び伸びとしていて、
適度に甘えることができるが、
安達君は甘えることを知らない。
その差は大きい。
安達君の育ってきた環境を知ると、
今までの彼の態度にも納得がいく。
これから彼をどのように、
見守っていけばいいのか、
冥王はすべてを話したがらないので、
向井は泣きじゃくる安達を、
ただただ見ていた。
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