第106話 アニメと安達

文字数 1,040文字

そして今は、TVを占領中という事か。

冥王から、

「安達君はしばらくは、
ここで過ごしてもらって、
それから仕事に入るから、
君達もそのつもりでいてくださいね」

と言われたが、
これは少し様子を見ていた方が、
いいのかもしれないな。

冥王が俺だけに言ったという事は、
何か言えない理由があるんだろう。

向井は室内に入ると、
安達に声をかけた。

「安達君? 」

向井の声も聞こえないのか、
凄い集中力だ。

「アニメは面白いですか? 」

その声にやっと安達が振り返った。

「面白い。
漫画は読んだことあるけど、
動くのは初めて。凄いね」

安達はアニメのことを話すときは、
特に幼くなる。

「うん、だけど疲れない? 
少し休んだら? 
見たいものがあるなら、
録画しておけば、
いつでも見れるから」

「……そういえば、ちょっと疲れた。
でも、これ見たいんだ」

「だったら、
録画しておいてあげるから、
少し寝ておいで」

「……分かった。眠ってくる」

安達はそういうと立ち上がり、
ふらふらしながら自室に戻っていった。

「向井はスゲエ~
俺があれだけ声かけても、
動かなかったのに」

向井がリモコンで録画をしていると、
牧野がびっくりした様子で、
近づいてきた。

「ちょうど、
眠くなってたんじゃないですか? 」

向井が笑って言った。

「あいつってやっぱ変」

牧野は安達の去った方向に目をやると、
ぽつりと言った。



その三日後―――

新たな大画面モニターが三台設置され、
牧野も寝ながらプロ野球を観戦していた。

「安達君はいませんね」

向井が聞くと、

「さっき、ディッセが来て、
安達を冥王のところに連れてったよ。
なんか、
新しいリングがどうとか言ってた」

リングが出来上がったのかな?

向井はそんなことを考えながら、
牧野に声をかけた。

「俺はちょっと仕事で下界に下りるので、
アートンさんに聞かれたら、
そう言っといてください」

「何かあるの? 」

「ん~大したことじゃないんですけど、
冥王に話があるので」

「分かった」

向井が部屋を出ようとすると、

「お土産欲しい~食いもんがいい~」

牧野の声がかぶさってきた。

「買えたらね」

向井は笑うと下界に下りて行った。


――――――――


黒谷翔太。

高田に言われて気になっていたので、
冥王に尋ねてみると、

「ああ、彼ね。
どうも特殊みたいで、
特例が見えないように、
何度も消去を試みたんだけど、
成功しないんですよ。
調べてみたらどこを探しても、
彼のような人間はいないんです。
不思議ですよね。
彼が寿命を全うせずここに来たら、
即特例にするんですけどね」

「縁起でもない」

向井が渋い顔をしていった。
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