第53話 ミニチュア作り

文字数 1,526文字

彼は、
ミニチュア・ドールハウス作家の十朱将臣。

サロンにきてギャラリーを目にした後、
自分もここで、
冥界のドールハウスを作りたいと言い、
派遣登録後にこの工房で作品を作っていた。

「二人が邪魔しているんじゃなければ、
いいんですけど」

「失敬な。
私は真剣に作っているんですよ」

「俺だってこれが出来たら、
部屋も作って、
ギャラリーに飾ってもらうんだ」

「そうですよ。ね~」

冥王と安達が二人で顔を見合わせ、
楽しそうに笑った。

「迷惑なら追い出してもいいですから」

向井が言うと、

「とんでもない。お二人の作るものも、
なかなか出来がいいですよ。
既にミニチュアの小物も二個目ですから、
このままいけばドールハウスが作れますよ」

「ほら、聞きましたか? 」

得意げな冥王を無視して、
向井は十朱の作品を見た。

「これ、三途の川ですか? 
美しいですね~
十朱さんの目には、
このような景色で見えているんですね」

あまりに精巧な作りに目が奪われた。

「僕もここのギャラリーを見るまでは、
作りたいなんて思いもしませんでした。
死んでしまったし、
もうどうでもいいやって」

十朱は作った小さな石を、
ピンセットでつまむと、
それを川辺に置いた。

「でも、このギャラリーの全てが、
死人の作品なんだって言われて、
心が奪われたんです。
作ったものを飾ってもらえるなんて、
夢みたいじゃないですか。
冥界にきてこれを見たら、
誰でも最後に大作を作ってから、
来世に行きたいって思いますよ」

十朱が目を輝かせながら話すのを見て、
冥王も嬉しそうに片笑んだ。

「僕が今作っている作品は、
出来上がるとちょっと、
飾る場所が必要になっちゃいます」

「心配しなくても大丈夫ですよ。
専門の大工がいるので、
作品に合わせて作り棚を、
製作してくれます」

「そうなんですか。
じゃあ、思いっきり作れますね。
安心しました」

十朱はそういうと椅子に座り、
楽しそうに作業を始めた。

「冥王はお仕事の方はいいんですか? 」

「うん? 一応一週間分の魂は、
霊弾砲につめてあるので大丈夫です」

霊弾砲とは、
生まれてくる子供に魂を入れ込むものだ。

以前は手動だったので、
冥王や死神が、
霊弾砲のそばを離れられなかった。

今は自動で生まれる子供に、
魂を入れることができる。

なので、
冥王も趣味を楽しむ時間があるわけだ。

「連打で入れられるのって、
便利ですね~
死産になってしまう確率も減りましたし、
自動標準で、
誤りがないないのも助かります。
研究・開発室には感謝です」

自分で標準を合わせて、
魂を入れ込んでいた時には、
少しのずれで、
死産になってしまうことがあった。

それが減少しただけでも、
ありがたい限りだ。

そんな話をしていると、
アラームが響いた。

「○○町にて、悪霊が巨大化。
除去課は出動中。
手の空いているものは、
現場へ直行してください」

仮眠をとろうとしてたのに………

向井は大きく息を吐くと、
安達に声をかけた。

「ほら、行きますよ」

「もう少しで出来あがるのに~
これ絶対に触らないでよ!! 」

安達がじ~っと冥王を見る。

「この私を疑うとは、
誰が教育してるんですかね」

冥王がちらりと向井を見る。

「俺のせいですか? 違うでしょう」

「もいいから、早くいってらっしゃい」

冥王が手を振るのを、
安達は疑り深い目で睨みながら、
部屋を出て行った。

向井も行きかけたところで

「冥王、
安達君の作品には手を触れないように」

入り口から顔をのぞかせ、
冥王の手を止めた。

「本当に油断も隙もないですね」

「分かってます。イタズラしません」

冥王が両手を上げた。

その横で十朱が二人のやり取りを、
笑いながら聞いていた。

向井が何も言わずに冥王を見る。

「…………」

「神に誓って何もしません」

「冥王が言っても意味がないですけどね」

向井はそういって、下界へ下りていった。
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